上級編 1. イールドカーブ

1.1 Interpolation

1.1.8 Turn of Year 期末越えレートの取扱い

1.1.8.1 非連続なフォワード金利への対応

期末越えの資金市場では、金利がジャンプする傾向があります。金融機関は、預金の一定比率を中央銀行に対し準備預金として預ける義務があり、特に期末にはその最終調整の為、資金を市場から引き揚げ、中央銀行に預ける傾向があります。その結果、期越えのインターバンク資金市場では資金がひっ迫する為です。 

日本では、日銀が超金融緩和政策を続けており、期越えレートのジャンプはあまり発生しませんが、米ドルの資金市場では、12月末から翌年までの期越えレートが数パーセントジャンプするのが観測されています。その金利リスクをヘッジする為に、期越えの期間を対象にしたFRAの取引きも活発です。 

イールドカーブを構築する際、この期越えレートの扱いが問題になります。これまで説明してきたSmoothingを目的としたInterpolation法を使うと、本来ジャンプすべき場所の前後で、無理やりSmoothingを行うので、かえって市場の実態を表さないフォワードカーブになります。 

実務では、このような場合、一旦期越えレートのジャンプの影響を取り除いた滑らかなイールドカーブを構築し、後で期越えの期間だけ金利を上乗せする形で調整しています。以下に、その具体的な方法を説明します。 

1.1.8.2 フォワードカーブを、期末越えレートの影響分と、それ以外に分解

期末越えレートも勘案した瞬間フォワード金利カーブを f(t) とおきます。そして、このカーブを期末越えレートの部分と、そうでない部分に分解し、その和として表現します。すなわち 

\[f(t)=ε_f (t)+f^* (t) \] \[但し ε_f (t)= \left\{ \matrix {\Delta_e (t),\ t∈[T_i,T_{i+n days}],\ i=1,2,… \cr 0,\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ otherwise\ } \right. \]

\( [T_i,T_{i+n days} ]\) は期末越えの期間、\(\Delta_e (t)\) は、期末越え期間のレートと、その前後の瞬間フォワード金利の間のスプレッド  

この瞬間フォワード金利から、T時のDiscount Factor(Zero Coupon Bond Price)を導出すると 

\[ DF(T)=e^{-\int_0^T \epsilon_f (t)dt} e^{-\int_0^T f^* (t)dt} \triangleq DF_e (T) DF^* (T) \]

すなわち、Discount Factorが、期末越えレートのスプレッド相当分と、それ以外の部分に分解できます。 

この式を使って、Bootstrapping + Interpolation法で使った連立方程式を立てます。 

\[ \left( \begin{array}{cccccc} -PV_1 & CF_1(T_1) & 0 & 0 & \ldots & 0 \\ -PV_2 & CF_2(T_1) & CF_2(T_2) & 0 & \ldots & 0 \\ -PV_3 & CF_3(T_1) & CF_3(T_2) & CF_3(T_3) & \ldots & 0 \\ \vdots & \vdots & \vdots & \ddots & \vdots & \vdots \\ -PV_n & CF_n(T_1) & CF_n(T_2) & CF_n(T_3) & \ldots & \ldots & CF_n(T_m) \\ \end{array} \right) \left( \begin{array}{c} 1 \\ DF_e (T_1) DF^* (T_1)\\ DF_e (T_2) DF^* (T_2)\\ \vdots \\ DF_e (T_m) DF^* (T_m)\\ \end{array} \right) = \left( \begin{array}{c} 0\\ 0\\ 0\\ \vdots \\ 0\\ \end{array} \right) \]

ここで \(DF_e (T)\) は期末越えのFRA取引などから、事前に計算しておき、未知数のベクトルから左辺のキャッシュフローの行列に移します。 

\[ \left( \begin{array}{cccccc} -PV_1 & CF_1(T_1) DF_e (T_1) & 0 & 0 & \ldots & 0 \\ -PV_2 & CF_2(T_1) DF_e (T_1) & CF_2(T_2) DF_e (T_2)& 0 & \ldots & 0 \\ -PV_3 & CF_3(T_1) DF_e (T_1) & CF_3(T_2) DF_e (T_2)& CF_3(T_3) DF_e(T_3)& \ldots & 0 \\ \vdots & \vdots & \vdots & \ddots & \vdots & \vdots \\ -PV_n & CF_n(T_1) DF_e (T_1) & CF_n(T_2) DF_e (T_2)& CF_n(T_3) DF_e(T_3)& \ldots & \ldots & CF_n(T_m)DF_e (T_m) \\ \end{array} \right) \left( \begin{array}{c} 1 \\ DF^* (T_1)\\ DF^* (T_2)\\ \vdots \\ DF^* (T_m)\\ \end{array} \right) = \left( \begin{array}{c} 0\\ 0\\ 0\\ \vdots \\ 0\\ \end{array} \right) \]

すると未知数は \(DF^* (T)\) だけになります。基礎編で説明したアルゴリズムを使って、各Pillarに対応する \( DF^* (T)\) を求めます。そこから最終的なDiscount Curve \[DF(T)=DF_e (T) DF^* (T) \] が求まり、さらにそこから、Zero Coupon CurveやForward Curveも簡単に導出できます。この中で使われるSmoothingを伴ったInterpolation法は、期末越えレートの影響を取り除いた、\(DF^* (T)\) あるいは \(f^* (t)\) 対して適用される事になります。そして、後から期末越えレートの影響を加えるので、最終的なカーブ \(f(t)\) は、期末越えでの非連続な形状が表現されます。 

 

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