基礎編 5. リスク量の計測

5.3 マクロ的なリスク指標

5.3.4 ストレステストとシナリオ分析

マクロ的なリスク量の計測については、私自身は、ストレステストとシナリオ分析を中心に考えるべきと思っています。経営管理者レベル、あるいは中央銀行や金融規制当局からすれば、市場のストレス時でも銀行が破綻しないレベルの資本を備えておく事が、最重要関心事です。しかし、市場のストレス時に発生する損失額を正確に予想するのは、極めて困難です。概算の数字しか出せませんが、何の数字も無いよりは遥かにましで、それで満足するしかありません。シナリオ分析であれば、例えば金利が2%上昇した場合や株価が20%下落した場合に、どの程度損失が発生するかという検証をすれば、リスクの方向性は明確です。様々なシナリオに基づいて損失発生額のシミュレーションを行っておけば、いざ市場のストレス時に、損失の見込み額と、対応策の指針になります。少なくとも逃げる方向が判っています。逃げきれるかどうかは“?”ですが。 

シナリオ分析は、非線形リスクを把握する為にも有効です。オプションのトレーディングブックの場合、ストライクが集中している価格帯があれば、市場価格がそこに行った場合にデルタやベガやガンマがどうなるのかあらかじめ計測しておくのは非常に有効なリスク管理方法になります。デルタヘッジしきれない程の巨額なSensitivitiesが発生している様であれば、事前にそれを消すようなヘッジ取引きを、コストが安い時に行うというインセンティブになります。また、市場リスクファクター間の相関が、モデルの想定と大きく乖離した場合に、どのような損益インパクトがあるのかを、事前に分析しておけば、相関リスクのあるポジションの全体量をコントロールする指標になります。 

一方で、様々なシナリオを基に、シナリオ分析をするのは、相当の計算負荷がかかります。ただ毎日行う必要は無いので、ITリソースの空く時期を選んで行えばいいのではないでしょうか。 

 

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