上級編 4. Short Rate Models (後編)
4.5 Affine Term Structure Model
4.5.6 まとめ : ATSMの使いにくさ
これまで、k(t) と σ(t)、及び α と β は、すべての t の区間で、すでに求まっていると仮定しましたが、これらのパラメータを市場データに Calibration するのは、簡単ではありません。まず、ATSM モデルを使った、ヨーロピアンオプションの価格を導出し、それを使って市場のベンチマーク商品 (CAP/FLOOR や Swaption)の価格計算が行えるようにしなければなりません。
CAP/FLOOR の価格式は、“寄り道:期待値の導出方法”で触れた、フーリエ変換を使えば求まります。 ゼロクーポン債価格式の解析解を求めるプロセスで、“Extended Transform”の導出方法を説明しましたが、これが求まれば、フーリエ変換する事により、確率密度関数が求まります。それを使ってPayoffの期待値演算が可能になります。詳しい説明は後回しにしたいと思います。また Swaption 価格の導出方法は、さらに複雑になり、同様に後回しにしたいと思います。
仮に、ATSM を使ってヨーロピアンオプションの価格を簡単に求める方法が見つかったとしても、Calibration は単純ではありません。というのは、前のセクションでモデルを当初イールドカーブにフィットさせる為に求めた w(t) は、k(t)、σ(t)、に依存しており、Calibration の為にこれらの値を動かすと、w(t) も動いてしまい、都度、計算し直さなければならないからです。
さらに、α、βは Volatility Skew カーブの形状を決めるパラメータになるので、その導出はさらに大変です。まずベンチマーク商品から Volatility Skew のカーブを導出し、それに Calibration しなければなりませんが、Volatility Skew/Smile カーブの導出方法は、ベンチマーク商品から、特定のストライクにおける Black Implied Volatility を導出し、それらを、何らかの Interpolation法を使って繫いで、曲線にします。その方法も様々であり、ここでは説明しきれません。そうやって Calibration された α と β については、r(t) をマイナスにしない条件や、Feller 条件などの制約がかかり、Volatility Skew の表現力は限られます。
ATSMは、このように、デリバティブズの価格評価で使うには、相当ハードルが高いにも拘わらず、Volatility Skew の表現力は限られています。こういったことが、ATSM が実務であまり使われていない理由のひとつかと思います。