基礎編 2. 金利の期間構造 

2.5 イールドカーブの構築方法(1) パラメトリック法

2.5.2 Nelson Siegelモデル

Nelson-Siegelは、国債のイールドカーブに内包するInstantaneous Forward Rate (瞬間フォワード金利)のカーブを表現するため、次の様な複数のパラメータを使った多項式を提示しました。(C. Nelson, A. Siegel、”Parsimonious Modelling of Yield Curves.” 、1987 ) 

\[ f(T)=\beta _0+\beta _1 e^{(-\frac{T}{\tau})}+\beta _2\frac{T}{\tau}e^{(-\frac{T}{\tau})} \]

(注1) 瞬間フォワード金利については既にセクション2.4で触れましたが、特定のフォワード期間に対応するフォワード金利の内その期間が無限小のものを言います。現時点をt、フォワード期間を \( [T_a,T_b] \) とし、t 時におけるフォワード金利を\( F(t,T_a,T_b) \) と表記します。ここで、\( T_b \) を限り無く \( T_a \) に近づけたものが瞬間フォワード金利と呼ばれています。さらに\( T_a=t \) の時は、瞬間短期金利と呼びます。 

(注2)ここで、なぜPar RateやZero Coupon Rateでは無く、瞬間フォワード金利のイールドカーブをモデル化しようとしたのか疑問が湧きます。この事は、上記の論文では、特に触れられていませんが、おそらく、不用意にPar RateやZero Coupon Rateでイールドカーブを描いてしまうと、それに内包するForward Rateのカーブがいびつな形になる可能性があるからだと推察します。 

この式は、瞬間フォワード金利のカーブが 3つの項(成分)の和で表現できるとしているものです。すなわち、 

\[ 瞬間Forward金利(T)= 定数 + 係数1 \times 減衰ファクター + 係数2 \times 増大ファクター \times 減衰ファクター \]

T=0 の時、第2項は\( \beta _1\)、第3項は0になります。即ち、イールドカーブの左端(瞬間短期金利)が\( β_0+β_1 \)になります。また、T=∞の時、第2項と第3項は0になるので、イールドカーブの右端(無限遠でのフォワード金利)は\( β_0\) になります。0< T < ∞の時、第2項は、指数関数が1から0に減衰していくので、\(β_1\)が+であれば、右下がりの曲線、マイナスであれば右上がりの曲線となり、その初期値はβ1、無限遠で0に収束します。また第3項は、0< T < ∞ の時、\(β_2\) の符号が+であれば、初期値は0で、そこから一旦増加し、Tがある時点を過ぎると減少に向かい、無限遠で0に近づいていきます(\(β_2\)が-ならその逆)。この3項が組合さった結果、各係数パラメータの大小により、右上がりになったり、右下がりになったり、一旦右上がりのあと右下がり(あるいはその逆)といったイールドカーブの形状が表現できます。

各パラメータ、すなわち\( β_0,\ β_1,\ β_2,\ \tau \) は、現在の市場実勢、すなわち特定の期間ごとの利回りの情報(時間軸と利回り軸の座標上に点をPlotとした散布図)に、最小2乗法などの最適化手法を使って求めます。市場実勢の瞬間フォワード金利を求めるのは大変なので、まず、Bootstrappingの方法を使って、ゼロクーポンレートのカーブ(Zero Coupon Curve)を求めます。次に、上記の瞬間Forward Rateの式をZero Coupon Rateの式に変換してから、パラメータの最適化を行います。瞬間フォワード金利を時間 0 から T まで積分し年率換算するとZero Coupon Rateが求まります。 

\[ ZeroCouponRate=\frac{\int_0^T f(t) dt}{T} \]

上記のNelson-Siegelの式を 0 から T まで積分すると以下のようになります。 

\[ ZeroCouponRate(T)=\beta_0 + (\beta_1 + \beta_2 )\frac{1-e^{(-T/\tau )}}{T/\tau} -\beta_2\ e^{-T/\tau} \]

この式を、市場レートから求めたZero Coupon Rateにフィットさせ各パラメータを求めていきます。 

 先ほど述べた3種類のタイプのイールドカーブの形状を表現するだけなら、指数関数を使わなくても、(無限遠を無視すれば)べき級数の多項式でも可能です。あるいは、カーブの成分となる項の数(すなわちパラメータの数)を増やせば、もっと複雑なカーブの表現も可能です。しかし、パラメータの数を増やせば、Over-fittingの問題が発生し、カーブに不自然な凹凸が至る所で発生します。また、各パラメータの経済的な意味付けも難しくなってきます。Nelson-Siegelも、実際の市場データを元に実証した結果、3項で4~5種類のパラメータくらいがちょうどいいと判断したのでしょう。 

ちなみに、各パラメータの意味付けをすると、 

  • \(β_0\):長期金利の収束点(市場が予想している長期間の実効金利)
  • \(β_1\):長期金利と短期金利のスプレッド。
  • \(β_2\):カーブに発生するHumpの曲がり具合
  • \(\tau\) :Humpがどの時期に発生するかを調整するパラメータ

と解釈できます。 

 

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