基礎編 4. オプション 

4.2 オプションのデルタヘッジ戦略

4.2.3 デルタヘッジ取引戦略による損益シミュレーション

セクション4.2.2でデルタヘッジ戦略の全体像を示しました。そこには、この戦略を取る為に必要なすべての付随取引きと、それにかかるコストあるいはリターンが含まれています。 

こうして、トレーダーのデルタヘッジ取引戦略のポジション全体から発生する損益は、そのコストとリターンの総合計になります。まとめると、 

  • Call Optionの価格変動から発生する損益と、
  • デルタヘッジのショートポジションから発生する損益と、
  • さらにオプション購入の為のファンディングコスト、
  • 借株の相手に支払う借株料、
  • 借株の相手に支払うみなし配当
  • 借株の相手方から受け取る現金担保に付利される利息

の合計からなります。 

下記に、このデルタヘッジ戦略を2月16日から2月28日まで継続した場合の損益変動の様子を図示します。 

上のチャートは、その間のトヨタ株の価格推移と変化率の推移を示しています。 

下のチャートは、デルタヘッジ戦略における、要因別の損益とその合計の推移を示しています。オプションから発生する損益と、デルタヘッジから発生する損益が、ほぼプラスマイナスで相殺されている様子が判ります。オプションプレミアムのファンディングコストや、配当や借株料などの要因は、短期間ではわずかですが、積みあがっていく事で、重要な損益要因になります。 

Delta Hedge Trading Strategy PL Chart

 チャートの原データは、下記エクセルファイルへのリンクをご覧下さい 

トヨタ株オプションのデルタヘッジ戦略による損益推移

 上のリンクファイルにある通り、10日間デルタヘッジ戦略を継続した結果、損益合計の累計は、ほんの僅かのプラス(約5万円)になりましたが、オプションから発生する損益と比較すれば、微々たるものです。オプション価格の変動が、デルタヘッジでうまく相殺された様子が判ると思います。

この期間の株価変動率の標準偏差を計算すると、たまたまImplied Volatilityと同じ、16.6%でした。(実は、16.6%になるように、少しだけ株価をいじりました) 

オプション売買後の、実際の株価のVolatilityをRealized Volatility(実現Volatility)と呼んでいます。ここで注目すべき点は、当初購入したオプションのImplied Volatilityと、購入後のRealized Volatilityが同じ場合、デルタヘッジ戦略から生まれる損益は、ほぼ0になるという事です。 

上記のトレーダーが、この戦略をオプションの行使期日まで継続した場合、株価が上昇していようがいまいが、オプションがIn the Moneyになっていようがいまいが、Realized VolatilityがImplied Volatilityと同じであったなら、損益の合計は、ほぼ0になるはずです。もし、Realized VolatilityがImplied Volatilityを上回っていたなら、損益はプラスになっているはずです。その間、一度もIn the Moneyにならなかったとしても、そうなります。 

Black-Scholesによるオプション価格式の導出方法を理解している人にとっては、これは当然の結果です。実際に、オプションのトレーディング経験者なら、十分理解できるでしょう。しかし、これを初めて聞く人には、少し驚きかもしれません。オプションの入門書での解説からすれば、Call Optionの購入者が利益を得られるのは、OptionがIn the Moneyになった場合しか考えられないからです。 

このデルタヘッジ戦略における、ショートポジションとそれに関連するファンディングや運用の全体が、Black-Scholesが論文の中で使っていた、“Hedged Position”に該当します。オプションの価格の動きを、完全にヘッジしたポートフォリオという意味です。上の例では、デルタヘッジを1日1回しか行っていませんが、Black-Scholesは、それを連続時間で行うと仮定しています。すなわち、株価が少しでも動くと、瞬時にデルタヘッジを調整するという仮定です。そうすると、上記のシミュレーションで、概ね0に近くなった損益が、完全に0に収束します。 

では、Black-Scholesモデルによるオプション価格式の導出方法を、次に簡単に説明します。 

 

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