基礎編 5. リスク量の計測
5.2 Sensitivities(感応度)の計測
5.2.2 線形リスク
5.2.2.1 市場リスクファクター
線形リスクとなるSensitivitiesは、市場リスクファクターが一定幅動いた時の損益の動きを表します。市場リスクファクターは、市場で観測される価格あるいはレートで、要は不確実に動くものです。
大手の投資銀行のトレーディング部門でモニターされている、一般的な市場リスクファクターは、概ね以下のようなものです。
- 為替レート、個別の株価、株価のインデックス、コモディティーなどの現物や先物価格
- それら商品間の価格差(スプレッド)
- 金利の場合は、同質の商品をグループ化し、そのグループにおけるイールドカーブの各期間に対応するSensitivities
- イールドカーブスプレッド
- グループ化された金利関連商品間のスプレッド(ベーシス)
- クレジットスプレッド
- Volatility
- 特殊なデリバティブズの対象インデックス(インフレ率など)
市場リスクファクターの内、Volatilityについては、オプションの期日(Expiry)に応じた期間構造があり、さらにストライク価格にも依存(Volatility SmileやSkew)するので、1つの対象資産のオプションについて、2次元の構造を持ちます。さらに金利オプションでは、対象資産の期間にも依存するので、Volatilityリスクは3次元(Volatility Cube)で考える必要があります。
海外での業務展開も積極的に行っている大手の投資銀行では、上のリストが主要な通貨、市場ごとに存在します。スプレッドやベーシスは、全ての組合せをみる必要は無いものの、主要な商品間のものだけでも相当数に上ります。従って、大手の投資銀行がモニターすべき市場リスクファクターは、3桁から4桁の数になります。
各トレーダーは、それらの内、自分がトレーディングする商品に関するものだけを見ればいいですが、リスク管理部門は、それらすべてをモニターしなければならなりません。またリスク量は、Sensitivitiesだけを計測すれば済む訳ではなく、市場リスクファクターの過去の動きも捉える必要があります。3桁から4桁の市場リスクファクターのSensitivitiesと過去の動きを計測しモニターするには、膨大なデータを必要とします。リスク管理の作業の大半は、データをいかに集めるかに費やされていると言っても過言ではありません。