基礎編 6. クレジットデリバティブズ

6.4   クレジットカーブ

6.4.2  ベンチマークのCDS価格からクレジットカーブを構築

クレジットカーブもイールドカーブと同様、ベンチマーク商品の市場価格から Bootstrapping-Interpolation のアルゴリズムを使って構築します。既に述べたように、実務では ISDA Standard Modelを使うのが一般的で、そこではサバイバル確率 \(\mathbb{Q}_i,~~i=0,…,n\) の対数を線形補間するアルゴリズムが使われています。 

カーブ構築は、だいたい下記のような手順で行います。 

  1. あらかじめリスクフリー金利のイールドカーブを構築し、Discount curve \(D_i,~i=0,…,n\) の値を求めておく。
  2. カーブ構築の原データとなる、ベンチマーク CDS の市場価格を用意する。(ここでは、前のセクションで示した iTraxx Japan の CDS価格を使って説明します。)
  3. CDS 価格式の中のサバイバル確率 \(\mathbb{Q}_i,~i=0,…,n\) を未知数とし、価格が市場価格と一致するような方程式を立てる。方程式は、ベンチマーク商品の数だけ立てる連立方程式になるが、通常、未知数の数 n より、ベンチマーク商品の数の方が大幅に少なく、そのままでは解けない
  4. そこでベンチマーク商品の Pillar(満期日)に対応するサバイバル確率のみを未知数とし、Pillar 間のキャッシュフロー日に対応するサバイバル確率は、Interpolation の方法を使って推定。最も満期日が短い CDSの満期日に対応するサバイバル確率を \(\mathbb{Q}_j\) とすると、\(\mathbb{Q}_0=1\) が分かっているので、\(\mathbb{Q}_0=1 ~ と~\mathbb{Q}_j \) 間にあるサバイバル確率は、Interpolation により \(\mathbb{Q}_j\) の関数として表現できる。また \(\mathbb{Q}_j\) が求まれば、\(\mathbb{Q}_j\) と、その次の満期日の CDS の pillarに対応する \(\mathbb{Q}_k\) の間にあるサバイバル確率は、\(\mathbb{Q}_k\) の関数として表現できる。
  5. また pillar 間のデフォールト強度は一定になるので、それを \(λ_j\) と置く。\(λ_j=-\frac{\ln \mathbb{Q}_j}{t_j-t_0}\) なので、\(λ_j\)もサバイバル確率\(\mathbb{Q}_j\) の関数として表現できる。
  6. その結果、各Pillarにおけるサバイバル確率だけが未知数となり、同じ数だけのCDS価格式を使った連立方程式となり、解く事ができる。

では具体的に見てみましょう。 

まず、各キャッシュフロー日を \(t_i,~i=-1,0,…,n,~~t_0=0,\) と表記します。取引日を 2025年3月6日とし、それを \(t_0\) とします。取引日よりひとつ前のクーポン日は2024年12月20日になり、それを\(t_{-1}\) とします。この日から経過利息の計算期間となります。また次回クーポン日は 2025年3月21日で、それを \(t_1\) と表記します。それ以降のクーポン日を \(t_2,~t_3~,…,t_n\) とし、\(t_n\) はクレジットカーブの最長期間で、最も期間が長いベンチマーク CDS の満期日になります。 

(1) それぞれの日付に対応する Discount Factor は既に計算済みとして、それを \(D_i,~i=0,1,…,n,~D_0=1\) と置きます。ここでは、リスクフリー金利を、期間中一定の 1%とみなします。すると、Discount Factor は \(D_i=e^{-0.01 t_i}\) となります。実際には、きちんとリスクフリー金利のベンチマーク商品(Overnight Index Swap)から、きちんとイールドカーブを導出して下さい。

(2) ベンチマークとなる CDS価格は、前のセクションで示した iTraxx Japan とします。銘柄数は 12銘柄で、最も期間の長い銘柄は、約5年です。キャッシュフロー日付は年4回払いなので、合計で約20あります。求めるものは、各キャッシュフロー日付に対応するサバイバル確率と Pillar 間のデフォールト強度です。

(3) まず、期間 6か月の CDS から。この CDS のクーポンスプレッドは 100bp で、価格は 100.2803% となっています。なので、契約時に、みなし元本の 0.2803% をProtection Seller から Protection buyer に支払う必要があります。同時に、経過利息相当額を、Protection Seller から Protection buyerへ支払います。経過利息額は、\(100bp × (t_0-t_{-1})\) となります。この契約時に現金授受される額を、CDS 価格式に加減します。すると、契約開始時の CDS 価格は等価交換になるので 0 となるはずです。これを式で表すと下記のようになります。この式は protection buyer から見た価格式です。価格式の最後に、up-front payment と経過利息相当額がプラスされている所を確認して下さい。

\[ \begin{align} iTrax & (series 33)~ CDS ~ Value \\ & =0.6×\sum_{i=1}^2 λ_i \frac{D_{i-1} \mathbb{Q}_{i-1}-D_i \mathbb{Q}_i}{f_i+λ_i} \\ & ~~~~~ -\sum_{i=1}^2 100bp×\left[Δt_i e^{-λ_i t_i} D_i + \frac{Δt_i λ_i}{f_i+λ_i} \left(\frac{D_(i-1) \mathbb{Q}_(i-1)-D_i \mathbb{Q}_i}{f_i+λ_i}-D_i \mathbb{Q}_i \right)\right] \\ & ~~~~~ +0.2803 \% + 1 \% ×(t_0-t_{-1}) \\ & ~~~ \\ & = \left[0.6×λ_1 \frac{D_0 \mathbb{Q}_0-D_1 \mathbb{Q}_1}{f_1+λ_1}+0.6×λ_2 \frac{D_1 \mathbb{Q}_1- D_2 \mathbb{Q}_2}{f_2+λ_2}\right] \\ & ~~~~~ -1\% \left[Δt_1 e^{-λ_1 t_1} D_1+ \frac{Δt_1 λ_1}{f_1+λ_1} \left(\frac{D_0 \mathbb{Q}_0-D_1 \mathbb{Q}_1}{f_1+λ_1}-D_1 Q_1 \right)\right]\\ & ~~~~~ -1\% \left[Δt_2 e^{-λ_2 t_2} D_2+ \frac{Δt_2 λ_2}{f_2+λ_2} \left(\frac{D_1 \mathbb{Q}_1-D_2 \mathbb{Q}_2}{f_2+λ_2}-D_2 Q_2 \right)\right] \\ & ~~~~~ +0.2803 \% + 1\% (t_0-t_{-1}) \\ & =0 \end{align} \]

ここで、既に述べた通り上式のいくつかの値は、下記の通りすべて\(\mathbb{Q}_2\) で表現できます。 

\[ D_0=\mathbb{Q}_0=1,~~~ ~~~λ_1=λ_2=-\frac{\ln \mathbb{Q}_2}{t_2-t_0},~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~\\ \mathbb{Q}_1=\exp⁡\left[ \frac{\ln \mathbb{Q}_0(t_2-t_1 )}{t_2-t_0} + \frac{\ln \mathbb{Q}_2 (t_1-t_0)}{t_2-t_0}\right] =\exp⁡\left[ 0 + \frac{\ln \mathbb{Q}_2 (t_1-t_0)}{t_2-t_0}\right] \]

また、各PillarにおけるDiscount Factorとpillar間の瞬間フォワード金利は、イールドカーブ(ここでは1%フラットと仮定)から下記のように求める事ができす。それを式に代入します。 

\[ D_1=e^{-0.01t_1},~D_2=e^{0.01t_2},~~~f_1=f_2=0.01 \]

さらに、上式の計算に必要なクーポン期間を計算すると、下記にようになり、それを上式に代入します。 

\[ t_0-t_{-1}=\frac {76}{360}=0.2111,~~ \Delta t_1=t_1-t_0=\frac{15}{360}=0.0417,~~ \Delta t_2=t_2-t_1=\frac{91}{360}=0.2528 \]

すると、上式は \(\mathbb{Q}_2\) を未知数とする 一元の方程式になり、解けるはずです。解析的にも解けるはずですが、式中に \(\ln \mathbb{Q}_2\) という値が含まれているのと、式が非常に長いので、解析がややこしそうです。通常、このような方程式は、1次元の solverを使えば簡単に答えが導出できるので、問題ないでしょう。\(\ln \mathbb{Q}_2\) が求まれば。\(\mathbb{Q}_1~も~λ_2\) も簡単に求まります。  

以上で、最初の pillar(2025年6月20日)までのクレジットカーブが求まりました。 

 

次に、Bootstrapping の要領で、次の pillar である 2025年12月20日 のCDS価格を使って、クレジットカーブを求めます。9月20日にクーポン支払が発生しているので、CDSのキャッシュフロー日付は、3月20日(\(t_1\))、6月20日(\(t_2\))、9月20日(\(t_3\))、12月20日(\(t_4\))、となります。\(t_1~と~t_2\) のサバイバル確率は既に求まっているので、\(t_4\) のサバイバル確率 \(\mathbb{Q}_4\) を未知数とする方程式を立てます。\(\mathbb{Q}_3\) は線形補間で \(\mathbb{Q}_2~と~\mathbb{Q}_4\) から求まります。 

これを繰り返せば、2029年12月満期のCDSまでのクレジットカーブが構築できますが、アルゴリズムは同じなので省略します。 

 

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