上級編 4. Short Rate Models
4.4 Hull-White モデル
< はじめに >
Hull-White は、Vasicek モデル \(dr(t)=a(\theta -r(t))dt+\sigma dW(t)\) におけるパラメータ \(a,~~\theta,~~\sigma,~\)を、それぞれ時間の関数 \(a(t),~~\theta(t),~~\sigma (t),~\)におきかえています。そのパラメータを、現時点のイールドカーブと、Volatilityの期間構造にフィットさせる事により、Arbitrage Free になるような Term Structure モデルを提示しました。
(Hull-White “Pricing Interest Derivatives Securities” 1990参照。 そこでは、ガウス分布モデルであるVasicekモデルだけでなくカイ2乗分布モデルである Cox-Ingersoll-Ross (以下“CIR”)モデルも Arbitrage Free に変換する方法を提示しています。)
Vasicekモデルを一般化したHull-Whiteモデルを、瞬間短期金利 r() の確率微分方程式として表現すると下記のようになります。
\[ dr(t)=a(t)\left[\theta (t)-r(t)\right] dt+\sigma_r (t)dW(t) \tag{4.1} \]中心回帰レベル \(θ(t)\) を時間の関数にする事により、瞬間短期金利の確率過程を、現時点のイールドカーブにフィットさせ、モデルがArbitrage Free の条件を満たすようにしました。モデルがArbitrage Freeの条件を満たすとは、モデルによって導出された金融商品の価格(ここでは、ゼロクーポン債価格やオプション価格)が、市場参加者の裁定行動により、もはや裁定行動が行えないレベルに収束した価格と一致することを意味します。
また中心回帰強度 \(a(t)\) とVolatility \(σ(t)\) を時間の関数にする事により、Swaption や CAP の市場価格から得られる、Implied (Black) Volatility の期間構造にフィットさせる事ができます。
Section 4.2.4 で説明した、一般的な SRM の解析プロセスを辿りながら、このモデルから金利オプションの価格を導出するまでのプロセスを見ていきたいと思います。解析の過程を理解しやすくする為、一般的なSRMの解析プロセスを、再記しておきます。
- モデルの特定(瞬間短期金利の確率過程を、確率微分方程式で特定)
- 確率微分方程式を解いて、t 時における瞬間短期金利 r(t) (の分布)を求める
- r(t)をTまで積分して、t 時におけるゼロクーポン債利回り(の分布)を導出
- 3.の指数を取り、ゼロクーポン債価格(の分布)を導出
- 分布の平均と分散を使って、期待値計算によりオプション価格を導出