基礎編 3. スワップ 

3.3 弊害

収益に対する欲求が強すぎると、得てして問題が起こります。過去30年ほど、デリバティブズに絡む事件、スキャンダルが、数多く報道されてきました。スワップが登場して暫くは、法制度や会計制度が未整備で、その隙間で意図的な、あるいは重大な不注意による事件、事故が多発してきました。

そういった事件のすべてを知っている訳ではありませんが、列挙しても仕方がないので、大きく3種類に分けて、主にどういう事が起こったかを簡単にまとめました。

3.3.1  ハイリスク商品を、よく理解していない投資家へ販売

デリバティブズを使い、ハイリスク・ハイリターンの商品を創り、リスクをよく理解していない投資家へ販売した後で、リスクが顕在化して大きな問題になったケースは、よく見かけました。古くは、Proctor & GambleやOrange Countyの事件が有名です。日本でも、銀行や証券会社が、複雑な仕組み商品を創って、それを事業法人や宗教法人や学校法人に積極的に販売し、後で問題になったケースを多くみかけました。 

90年代前半に発生したProctor & Gambleのケースは、金利スワップにおける変動金利キャッシュフローのスプレッドが、米国国債の金利や価格に連動するとういうStructured Products(仕組み商品)で問題が発生しました。Proctor & Gambleは、実質的には米国国債のプットオプションの売りポジションをみなし元本の何倍も引受けた事になり、取引開始直後からの金利急上昇で、巨額の損を抱える事になりました。最終的にみなし元本200百万ドルに対し、140百万ドル以上の損失を出して、取引開始のわずか半年後に取引を解約せざるを得ませんでした。 

同じ頃に発生したOrange Countyの事件では、Orange Countyの年金基金運用者が、Inverse Floater(LIBORが低下すると、逆に変動金利クーポンレートが上昇する仕組みの商品)のリスクを過度に取り、最終的にCountyのデフォールトに至ったものです。Inverse Floaterは、債券ですが、背後で金利スワップが組まれており、実質的には元本の2倍から数倍の固定金利リスクを取る商品です。同じく、金利が急上昇した為、多額の損失が発生しました。 

いずれのケースも、デリバティブズを使ってハイリスク・ハイリターンの商品を創り出し、それをリスクに対する認識の甘い投資家に販売し、リスクが顕在化したところで大問題になったケースです。Proctor & Gambleのケースでは、取引相手方であったBankers Trust(その後、ドイツ銀行と合併)が過度の収益を得ていた事、顧客がリスクを十分理解していない事を知りながら販売していた事が、厳しく批判されました。 

Orange Countyのケースでは、運用担当者は、一応プロの投資家のはずでしたが、リスクに対する認識が非常に甘かったようです。 

その後も、同様のケースが、繰り返しメディアで報道されてきました。 

共通するパターンは、「仲介業者となる金融機関が、ハイリスク・ハイリターンの商品を創り出し、リスクへの認識が甘く、ハイリターンにつられた投資家へ積極的に販売した」という点でしょう。リスクは、レバレッジをかけるか、あるいは投資家にオプションを引受けさせるかによって高められ、その分、リターンを高くするように設計されました。その際、金融機関は、かなりの手数料を抜いており、場合によってはリスクとリターンが見合っていない商品になっていた可能性もあります。 

投資リスクは投資家が負う自己責任の原則はあるものの、投資家が本当にリスクを理解したかどうかを確認するプロセスにおいて、金融機関は最大限の努力をすべきでしょう。各国の金融当局も、この種のケースの問題を認識し、規制を強化してきました。リーマンショック後、米国ではDodd-Frank法とその関連規則によって、欧州ではMiFID-IIによって、日本では金融商品取引法と関連規則の改正によって、金融機関によるリスク開示義務を、厳しく課すようになってきています。 

3.3.2 会計制度の未整備の隙間をついて、会計操作に使われる

デリバティブズの会計処理については、かつて時価会計とAccrual 会計(発生主義会計)が並存していました。デリバティブズでは、キャッシュフローの発生時期を、どのようにでも設計できたので、Accrual 会計を取った場合、損益の発生額を、決算期によって恣意的に調整する事も可能でした。その仕組みを使って、損失の先送りを、意図的に行ったようなケースもありました。 

報道されたケースで有名なのは、90年代後半に発生した、ヤクルトによる約1000億円の損失隠しの事件が有名です。ヤクルトは、Deep In the Moneyのオプションを売り、それによって手前で巨額のオプションプレミアムを受取り、それを全額利益として認識していました。オプション行使時には、よっぽど市場がうまい方向に動かない限り、大きな実現損が発生する事になります。そこで同様の取引きを繰り返し、ネットで損失が実現しないような操作を繰り返す内に、損失がどんどん膨らんでしまったようです。 

デリバティブズについては、90年代後半に、原則として時価会計が義務付けられ、それ以降は、デリバティブズを使った決算操作の事件は、殆ど聞かなくなりました。 

 

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