上級編 6.  Libor Market Model 

6.6   モンテカルロシミュレーション

6.6.4   分散減少法(Variance Reduction Techniques)

6.6.4.1   分散減少法の概要

モンテカルロシミュレーション(MCS)で生成された“サンプル平均”は、サンプル数を増やせば、モデルが想定する“真の平均”に収束していきます(但し離散バイアスがない限りにおいて)。ただ、そもそも真の平均が不明だから MCS を行っている訳で、MCS で真の平均を知る事はできません。しかし、サンプル平均が真の平均とどの程度離れているか(推定誤差)を、確率的に推定する事は可能です。 

MCS で生成されたサンプル数を N、そのサンプル上の確率変数の分散を \(v_s\)、サンプル平均を \(\alpha_s\)、そしてLMM が想定する真の平均を \(\alpha\) とすると、推定誤差の分散 \(σ_{error}^2\)、および標準偏差(標準誤差) \(σ_{error}\) は下記式で求まります。(但し、離散化バイアスが発生していない場合です。) 

\[ σ_{error}^2=E\left[(α_s-α)^2 \right]=\frac {v_s}{N},~~~~or~~~~σ_{error}=\sqrt {\frac {v_s}{N}} \tag{6.84} \]

この推定誤差の分布は、中心極限定理により、平均 0、分散 \(σ_{error}^2\) の正規分布となる事が知られています。そしてサンプル平均 \(\alpha_s\) から \(±\alpha_{error}\times n\) 倍の範囲を“信頼区間”と呼び、正規分布の分布関数から、その区間内に真の平均が含まれている確率を求める事ができます。シミュレーション結果の信頼度を上げるためには、この信頼区間を狭めていく事、すなわち推定誤差を小さくする事です。その方法は、6.84 式を見れば分る通り、分母であるサンプル数 N を大きくするか、分子であるサンプル値の分散 \(v_s\) を小さくすればいい事になります。 

 

さて、N を大きくするには、コンピューターの能力を使って、力づくで、計算を行う事になります。当然、N に比例して計算時間は大きくなります。それによる信頼区間の減少は \(\mathcal {O}(\sqrt N)\) のオーダーになります。一方サンプル値の分散を小さくするには、様々な数学的なテクニックがあり、それらを総称して、“分散減少法”(Variance Reduction Techniques)と呼んでいます。主なものは、以下のようなものです。 

  • Antithetic Sampling (対称サンプル法)
  • Control Variates Methods(制御変量法)
  • Stratified Sampling Methods(層別サンプリング法、層別抽出法)
  • Important Sampling Methods(重点サンプリング法)

これらの方法による分散減少の効果はまちまちですが、巧妙なスキームであれば、\(\mathcal {O}(10^2 )~から~\mathcal {O}(10^3)\) のオーダーで分散を低減できます。すなわち N を増やすよりも、極めて効率的に推定誤差の分散を低減できます。これらのテクニックのいくつかを、これから紹介したいと思いますが、各テクニックとも具体的に使う為には個別の商品の Payoff 関数の特性に合わせてアルゴリズムを考える必要があります。従ってここでは、一般論の解説に留めたいと思います。ここでの解説は、主に、Paul Glasserman著の“Monte Carlo Methods in Financial Engineering”に依拠しています。 

 

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