上級編 4. Short Rate Models

4.4   Hull-White モデル

4.4.5   Trinomial Tree : 3項ツリーの構築

4.4.5.2   \(r(t)\) からの変数変換

ところで、ほとんどの3項ツリー構築方法の解説では、モデルが想定している確率変数、すなわち瞬間短期金利 \(r(t)\) を、一旦、中心回帰レベルが 0 になるような確率変数 \(x(t)\) に変換しています。そして、まず \(x(t)\) の3項ツリーを構築し、それをシフトさせて Arbitrage Free になるような \(r(t)\) のツリーに再変換しています。なぜ、そのような面倒な方法を取るのでしょうか? 重要なポイントなのに、以外と、その理由を解説していない文献が多いです。そこで、まず、その説明から始めます。 

Section 4.1 で、Hull-White モデルにおける中心回帰レベル \(θ(t)\) を、解析的に求める方法を説明しました。その結果、モデルから導出されるイールドカーブが、Arbitrage Free になるような \(θ(t)\) は、次の様な式になりました。 

\[ θ(t)=\frac{1}{a(t)}\frac{\partial f(0,t)}{\partial t}+f(0,t) +1/a(t) \int_0^t e^{-2∫_u^t a(s)ds}σ_r (u)^2 du \tag{4.17} \]

この \(θ(t)\) を4.1 式に代入すると、下記のようになります。 

\[ dr(t)=a(t)\left( \frac{1}{a(t)}\frac{\partial f(0,t)}{\partial t}+f(0,t) +1/a(t) \int_0^t e^{-2∫_u^t a(s)ds}σ_r (u)^2 du -r(t) \right) dt+σ_r (t)dW(t) \]

この式がうまく積分出来れば、\(r(t)\) の一定時間後の期待値と分散が求まります。積分できなくても、式のドリフト項に微小な離散時間 \(Δt\) を掛ければ、期待値の近似値になります。それを使えば、3項ツリーの遷移確率が求まりそうです。 

ところが、この式の \(θ(t)\) には、大きな欠点がある事は既に述べました。第1項にある現時点の瞬間フォワード金利カーブの傾き (t での偏微分項)です。瞬間フォワード金利カーブは、特殊な Interpolation 法を使わない限り、非連続になり、至る所で微分不可能です。また、無理やり連続にするような Interpolation 法でも、そのやり方はかなり恣意的です。従って、これを使って、期待値を計算するのは、かなり危険です。 

という事で、この問題を回避する為に、下記の式を満たすような確率変数 \(x(t)\) を新たに導入し、一旦拡散過程の式から \(θ(t)\) を取り除きます。 

\[ r(t)=x(t)+ϕ(t),~~~~~~~~~~~~~~~~~ \tag{4.37} \] \[ dx(t)=-a(t)x(t)dt+σ_r (t) dW, \tag{4.38} \] \[ x(0)=0,~~~~ϕ(0)=r(0),~~~~~~~~~~~ \]

最初の式中の \(ϕ(t)~~は、x(t)\) の 3項ツリーを構築後、\(r(t)\) の ツリーに変換する際に、当初イールドカーブに完全にマッチさせる為の Fitting(調整)パラメータになります。後で説明しますが、ツリーを変換する際に、Solver を使ってそれを求めます。これにより、モデルをArbitrage Free にする役割は、\(θ(t)~~から~~\phi (t)\) に移ります。 

第2式は、\(x(t)\) の確率過程を示しています。ドリフト項を見れば判る通り、中心回帰レベルが 0 となり、中心回帰強度が \(a(t)\) の Ornstein-Uhlenbeck 過程を取ります。ドリフト項から \(θ(t)\) が消えて極めてシンプルになり、簡単に \(Δt\) 間の期待値や分散を求める事ができます。すると、3項ツリーの遷移確率も簡単に求まります。 

\(x(t)\) の樹形構造が出来上がれば、後は、第1式の \(\phi (t)\) を計算し、それを加えれば \(r(t)\) の3項ツリーになります。 

 

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