上級編 7.  Local Volatility Model とStochastic Volatility Model 

7.2  Local Volatility Model 

7.2.3.1  Displaced Diffusion Model 

CEVモデルを少し改良した、Displaced Diffusion Model と呼ばれるものがあります。このモデルは下記式のような SDE で表現されます。 

\[ dS(t)=λ~(S(t)+α)^p dW(t) \tag{7.5} \]

Skew を表現するパラメータが、CEV の指数パラメータ p に加え、シフトパラメータである α が加わった事で、表現力が少し豊かになります。また、この程度の複雑さであれば、ヨーロピアンオプション価格が解析的に求まります。 導出方法は、変数変換を行えば、前のセクションの CEV モデルの解析解から、簡単に求まります。 

 まず 7.5式のS(t)を変数変換して、\(X(t)=S(t)+α\) と置き、伊藤の公式を使って \(X(t)\) の SDE を導出すると、下記式のようになります。 

\[ dX(t)=λ~ X(t)^p~ dW(t) \]

すると CEV モデルと全く同じ形になり、CEV モデルによるヨーロピアンオプションの価格式の解析解がそのまま使えて、下記のようになります。 

\[ \begin{align} E & uropeanCall_{D-CEV} (t,S(t);T,K,α) \\ & =EuropeanCall_{CEV}(t,S(t)+α;T,K+α) \\ & =(S(t)+α)~(1-Υ(a,b+2,c))-(K+α)~Υ(c,b,a) \tag{7.6} \end{align} \]

要は、S と K を α だけずらして、CEV の解析解の式をそのまま使っているだけです。 

注意すべきは、この式では、α が +であれば、S(t)の分布の下限は -α で、マイナスになる可能性がある事です。かつては、それを避ける為、α を負の値にする事が条件でした。しかし金利オプションの世界では、マイナス金利に対応する為、逆に α を + にして使うのが主流になっています。ただし、このモデルも、CEV モデルが使われないのと同じ理由で、これ単独で使われる事はあまりないと思います。 

 

7.2.3.2   Displaced Log-Normal Model

Displaced Diffusion Model の 7.5式で、p=1 とした場合、S(t)の分布が、完全ではないものの、かなり対数正規分布に近くなるので、Displaced Log-normal Model("DLN") と呼ばれています。この場合も-α の値が S(t) の下限になりますが、α を+にすれば、下限がマイナスの領域になるので、マイナス金利への対応が可能になります。なので、Black Modelをマイナス金利へ対応させる応急的な方法として、実務で広く使われています。もともと Volatility Skew を表現する為に提示されたモデルでしたが、今では、マイナス金利に対応できるモデルとしての役割の方が重視されています。 

ここでは、Displaced Log-normal Model を、次のような SDE で仮定します。前の Displaced Diffusion Model の 7.5式とパラメータの表記方法を変えていますが、本質は同じです。拡散項係数にある \((β+ζ S(t))\) を、S(t)のレベルに近くなるようにβとζを設定すれば、確率分布が対数正規分布に近くなります。 

\[ dS(t)=λ~(β+ζ S(t))~dW(t) \tag{7.7} \]

ここから、先ほどの Displaced Diffusion Model のヨーロピアンオプションの価格式(7.6式)がそのまま使えますが、それだと、非心カイ2乗分布の累積分布関数という、あまり馴染みのない関数を使うことになります。この場合、Black の公式を使った方が、より馴染みのある標準正規累積分布関数が使えるので、それを示します。結果だけ示しますが、下記の通りです。 

\[ \begin{align} & EuropeanCall_{DLN} (t,S(t);T,K,β,ζ) := E((S(T)-K)^+) \\ & ~~ = (S(t)+β/ζ)~Φ(d_+)-(K+β/ζ) Φ(d_-) \\ & ~ \\ & ~~~~ 但し~~~~~~d_±=\frac {\ln {\frac{(S(t)+β/ζ}{K+β/ζ}} ± 1/2 ζ^2 λ^2 (T-t)}{|ζλ| \sqrt {T-t}} \tag{7.8} \end{align} \]

導出方法は、\(β+ζ~S(t)=X(t)/ζ \) と変数変換し、Black の公式に代入すればいいだけです。 

 

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