上級編 7.  Local Volatility Model とStochastic Volatility Model 

7.2   Local Volatility Model 

7.2.4  より複雑なLocal Volatility Modelと、その近似解を求める方法 

7.2.4.1    複雑な Skew 関数を持つLocal Volatility Model

これまで紹介してきた Local Volatility Model は、Volatility の水準を決めるパラメータ(CEVの指数パラメータpや、Displaced Diffusion Model のシフトパラメータ α、β、ζ など)がすべて定数のモデルでした。パラメータを定数にする事により、なんとかオプション価格式の解析解を導出する事ができました。しかし、パラメータを定数にすると、Volatility Skew や Smile カーブの形状が、時間経過にかかわらず、ずっと同じ形になると想定する事になります。実際に市場で観測される Volatility Curve の形状は、オプションの行使期間にかかわらず同じという事はありません。一般的な傾向としては、行使期間が長くなるにつれカーブの曲率や傾きが緩やかになっていきます。そのような形状変化を捉えるには、パラメータを定数から時間依存の関数に変えて対応する事になります。そのようなモデルは、一般的に次のような形になるでしょう。(S(t)をニュメレールとの相対価格としているので、ドリフト項は 0 です) 

\[ dS(t)=λ(t)~ϕ(S(t),{\bf p(t)})~dW(t) \tag{7.9} \]

この SDE のように、Local Volatility 関数 \(ϕ(S(t),\bf p(t))\) が、時間に依存するパラメータ \(\bf p(t)\) を持つ場合、通常は、シンプルなヨーロピアンオプションであっても価格の解析解は求まりません。しかし、完全な解析解ではないものの、解析的近似式を使ったヨーロピアンオプションの価格式の導出方法がいくつか紹介されています。近似式ではあっても誤差が小さく、高速な価格計算が可能で、モデルパラメータの Calibration において、非常に有用です。但し、数学的にかなり難解なテクニックであり、理解は容易ではありません。以下のその方法のひとつで、Small Noise Expansion という方法を紹介します。このテクニックは、後で、Stochastic Volatility Model でも使う場面があるので、それを理解する為にも、まずここで解説したいと思います。 

 

7.2.4.2   Small Noise Expansion 法の概要

ここで、紹介するのは、Small Noise Expansion という方法です。(Andersen-Piterbarg ”Interest Rate Modeling” Chapter 7.6 参照)(別の文献では、マリアバン微分を使ったカオス展開、あるいはウィーナー・カオス展開と呼んでいるものもあります。)かなり複雑な数学的技巧を使っているので、解りにくいですが、自分のできる範囲で解説したいと思います。具体的な解析のプロセスの説明に入る前に、その導出プロセスの全体像を、簡単に説明しておきます。 

  1. まず、7.9 式の SDE を近似するような、簡略化された別の SDE を用意します。簡略化は、7.9 式の skew関数 \(ϕ(S(t),\bf p(t))\) と同じ関数形ながら、パラメータが定数のもの(それを \(\bf \bar p\) とします)を考えます。この簡略化した skew 関数は、前のセクションで示した、CEV モデルあるいは、Displaced Diffusion Model の形を想定しています。従って、その簡略化モデルを使えば、オプション価格の解析解が求まります。そしてこの簡略化されたモデルと、元のモデルの、オプション行使時における確率分布が極めて近くなるように出来るなら、それぞれのモデルによるヨーロピアンオプションの価格も極めて近くなるはずです。すると、簡略化モデルの解析解が、7.9式のモデルによるオプション価格の近似解と看做す事ができます。
    従って、これからやろうとする事は、この2つの SDE から得られるオプション行使時(それをT時とします)の確率分布が、できるだけ近くなるように、簡略化モデルの定数パラメータを求めるものです。その為に以下のようなステップを踏みます。
  2. まず、パラメータが時間依存するSDEと、それを簡略化した定数パラメータのSDEは下記のような形になるとします。 \[ dS(t)=λ(t)~ϕ(S(t),{\bf p(t)})~dW(t) \tag{7.10} \] \[ dY(t)=λ(t)~ϕ(Y(t),{\bf \bar p } )~dW(t) \tag{7.11} \] 但し、いずれの SDE も初期値は同じで \( S(0)=Y(0)=S_0\) とします。そして、両方の SDE の拡散項係数に、Small Noise として \(ε(0≦ε≦1)\) を掛けます。 \[ dS^ε (t)=ε~λ(t)~ϕ(S(t),{\bf p(t)})~dW(t) \tag{7.12} \] \[ dY^ε (t)=ε~λ(t)~ϕ(Y(t),{\bf \bar p } )~dW(t) \tag{7.13} \] \(ϵ=0\) で、確率変数は初期値のまま変動しない状態を表します。また \(ϵ=1\) で、元の SDE と同じになります。この SDE を、伊藤積分を使った積分形で表現すると、T 時における S(T) と Y(T)は下記のように表現できます。 \[ S^ϵ (T)=S_0 +ϵ \int_0^T λ(t)~ϕ(S^ϵ(t),{\bf p(t)})dw \tag{7.14} \] \[ Y^ϵ (T)=S_0 +ϵ \int_0^T λ(t)~ϕ(Y^ϵ(t),{\bf \bar p})dw \tag{7.15} \] この式の右辺にある積分は、関数形が複雑なので、これ以上解析できないとします。そこで、\(S^ϵ(T)~と~Y^ϵ (T)~ を、ϵ=0\) の回りで、\(ϵ\) のべき乗によるウィーナー・カオス展開で近似します。ウィーナー・カオス展開は、一般的なテイラー展開の考え方を、伊藤積分に対して応用するものです。
  3. \(S^ϵ(T)~と~Y^ϵ (T)\) の分布が、できるだけ近くなるとは、\(S^ϵ (T)~と~Y^ϵ (T)\) の差の分散をできるだけ小さくなるようにする事です。そこで、まず上記のウィーナー・カオス展開で導出された \(S^ϵ (T)~と~Y^ϵ (T)\) について、\(ε=1\) として、T時の S(T) と Y(T) の値を求めます。そしてそこから、その差の分散値が最小となるような、\(ϕ(Y^ϵ(t),{\bf \bar p})\) のパラメータ \(\bf \bar p\) を探します。 \(\bf \bar p\) が求まれば、Y(T) について、前のセクションで導出したヨーロピアンオプションの価格式の解析解を、S(T)のヨーロピアンオプションの価格の近似解と看做せます。

Andersen-Piterbarg本では、実際に、この方法で求めた価格と、別途 有限差分法でもとめた価格が、極めて近くなる事が、実証されています。以下に、具体的なモデルとして Displaced Diffusion Model を使って、解析のプロセスを数式で示します。プロセスは、Andersen-Piterbarg本を、そのまま使っています。 

 

7.2.4.3   具体例:時間依存するDisplaced Diffusion Modelの、ヨーロピアンオプション価格の近似式導出

では、Small Noise Expansionのテクニックを、具体的なモデルに当てはめて解説します。 

1.   時間依存の skew 関数を持つモデルの特定

まず、7.10 式の skew 関数を具体的に特定します。ここでは、skew 関数として、S(t)の 2次関数形を持つ Displaced Diffusion Modelを例として使います。このモデルは、下記式のようになります。モデルのパラメータを、ここでは、λ(t),b(t),c(t) と表記します。ここでも、S(t)はニュメレールとの相対価格です。 \[ \begin{align} dS & =λ(t)~φ(b(t),c(t),S(t))~dW(t) \\ & 但し~~~~φ(b(t),c(t),S(t))=(1-b(t)) S_0+b(t)S(t)+ \frac 1 2 c(t)(S(t)-S_0 )^2 \tag{7.16} \end{align} \] 次に、このモデルの skew 関数と同じ 2次の関数形を持つものの、パラメータ b(t),c(t)がそれぞれ定数 \(\bar b,~ \bar c\) となるモデルを用意します。 \[ \begin{align} dY & =λ(t)~φ( \bar b,~ \bar c,~Y(t))~dW(t) \\ & 但し~~~~φ( \bar b,~ \bar c,~Y(t))=(1-b(t)) S_0+\bar b Y(t)+ \frac 1 2 \bar c(Y(t)-S_0 )^2 \tag{7.17} \end{align} \] 初期値は、いずれも同じ、\(S_0\) とします。  

2. skew 関数に Small Noise ファクター εを掛ける

次に、上記の2つのSDEに、それぞれ Small Noise として、ε を掛けます。すでに概略で説明した通り、後で、この ε のべき乗を使って ε=0 の回りでウィーナーカオス展開をする為です。 \[ dS^ε =ε~ λ(t)~φ(b(t),c(t),S^ε (t))~dW(t) \tag{7.18} \] \[ dY^ε =ε~ λ(t)~φ( \bar b,~ \bar c,~Y^ε (t))~dW(t) \tag{7.19} \] 既に説明した通り、ε=0 であれば、\(S^ϵ (t)~も~Y^ϵ (t)\) も確率変動する事なく、初期値のまま一定となります。すなわち \(S^0 (t)=S^0 (0)=S_0,~~Y^0 (t)=Y^0 (0)=S_0\)。一方、ε=1 とすれば、元の SDE と同じ形になります。すなわち \(S^1 (t)=S(t),~Y^1 (t)=Y(t)\)  

3.   7.18, 7.19式を伊藤積分形式に変換

この2つのモデルから得られるオプション行使時(T)における確率変数 \(S^ϵ (T),~Y^ϵ (T)\) の分布は、同じ初期値 \(S_0=Y_0\) からスタートすれば、\(\bar b,~\bar c\) をうまく設定する事によって、かなり近い分布を持つと推察されます。これからやろうとする事は、その分布が極めて近くなるような、\(\bar b,~\bar c\) を見つける事です。その為に、まず上記の SDE を、伊藤積分を使った T時までの積分形式で表現してみます。 \[ S^ϵ (T)=S_0+ϵ~∫_0^T λ(t)~ϕ(S^ϵ (t),b(t),c(t))~dW \tag{7.20} \] \[ Y^ϵ (T)=S_0+ϵ~∫_0^T λ(t)~ϕ(Y^ϵ (t),\bar b, \bar c)~dW \tag{7.21} \]  

4.  ϵ=0 回りでのウィーナーカオス展開式の導出

上式の右辺のですが、積分の被積分関数が複雑でこれ以上解析できないので、ウィーナーカオス展開で近似します。仮に、ε=0 の回りで、\(ϵ^3\) の項までウィーナーカオス展開できたとすると、下記式のような形になるでしょう。(その為には、右辺の伊藤積分が、ε=0 の点で、3階微分可能でなければなりません。その辺りの数学的な説明は飛ばします) 

\[ S^ϵ (T)=S_0+ϵ~A_S+ϵ^2~ B_S+ϵ^3~ C_S+ \mathcal {O} (ϵ^4 ) \tag{7.22} \] \[ Y^ϵ (T)=S_0+ϵ~A_Y+ϵ^2 ~B_Y+ϵ^3 ~ C_Y+\mathcal {O} (ϵ^4 ) \tag{7.23} \]

各項の係数にある、\(A_S,B_S,C_S,A_Y,B_Y,C_Y\) は、それぞれ、\(S^ϵ (T),~Y^ϵ (T)~の~ε=0\) における、一階微分、二階微分、三階微分になります。それを以下のようにして、求めます。 

4.1 
まず、\(A_S\) から。 \(A_S\) は \(S^ϵ (T)~の~ϵ=0\) 点における一階微分(\(∂S^ϵ (T)/∂ϵ\))になります。7.18 式の ϵ=0点 における一階微分は、関数の積の微分の公式を使って以下のように求まります。 \[ {\small \begin{align} \frac {∂S^ϵ (T)}{∂ϵ} |_{ϵ=0} & =\frac {∂ \left[S_0+ϵ∫_0^T λ(t)φ(b(t),c(t),S^ϵ (t))dW(t) \right] }{∂ϵ }|_{ϵ=0} \\ & =\left[∫_0^T λ(t)φ(b(t),c(t),S^ϵ (t))dW(t) +ϵ∫_0^T λ(t) \frac {∂φ(b(t),c(t),S^ϵ (t)}{∂S^ϵ (t) } \frac {∂S^ϵ (t)}{∂ϵ} dW(t)\right] |_{ϵ=0} \\ & =∫_0^T λ(t)φ(b(t),c(t),S^0 (t))dW(t) \\ & =∫_0^T λ(t)S_0 dW(t) \tag{7.24} \end{align} } \]

(注:右辺2行目でε=0を代入すると、第2項は 0 で消え、第1項は3行目のようになり、そこに 7.14式の skew関数を代入すると 4行目のようになる。)  

これで \(A_S\) が求まりました。 

4.2  
次に \(B_S\) です。\(B_S ~は~ S^ϵ (T)~ の~ ϵ=0\) 点における二階微分になります。上記の 7.24式の右辺 2行目にある[ ]内が一階微分なので、それを ε でもう一回微分すればいいでしょう。すると次のようになります。 \[ {\small \begin {align} & \frac {∂^2 S^ϵ (T)}{∂ϵ^2}|_{ϵ=0} \\ &~~~~~ =\frac {∂}{∂ϵ} \left[∫_0^T λ(t)φ(b(t),c(t),S^ϵ (t))dW(t) +ϵ∫_0^T λ(t) \frac {∂φ(b(t),c(t),S^ϵ (t))}{∂S^ϵ (t)} \frac {∂X^ϵ (t)}{∂ϵ} dW(t)\right] |_{ϵ=0} \\ &~~~~~ =\left[∫_0^T λ(t) \frac {∂φ(t)}{∂S^ϵ (t)} \frac {∂S^ϵ (t)}{∂ϵ} dW(t) +∫_0^T λ(t) \frac {∂φ(t)}{∂S^ϵ (t)} \frac {∂S^ϵ (t)}{∂ϵ}dW(t) \right] |_{ϵ=0} \\ &~~~~~~~~~~ + ϵ∫_0^T λ(t) \frac {∂^2 φ(t)}{∂S^ϵ (t)^2 } \left(\frac {∂S^ϵ (t)}{∂ϵ}\right)^2 dW(t)|_{ϵ=0} + ϵ∫_0^T λ(t) \frac {∂φ(t)}{∂S^ϵ (t)} \frac {∂^2 S^ϵ (t)}{∂ϵ^2} dW(t)|_{ϵ=0} \tag{7.25} \end{align} } \] ここで、上式の右辺 2 行目の第 1 項の被積分関数にある \(∂φ(t)/∂S^ϵ (t)\) は ϵ=0 の場合は、7.17式から、下記式の通り、b(t)となります。 \[ \begin{align} \frac {∂φ(b(t),c(t),S^0 (t))}{∂X^0 (t)} & = \frac {∂}{∂S^0 (t)} \left[(1-b(t)) S_0+b(t) S^0 (t)+ \frac 1 2 c(t) (S^0 (t)-S_0 )^2 \right] \\ & =0+b(t)+ 0 =b(t) \\ & ~~~~~~ ∵S^0 (t)-S_0=S_0-S_0=0 \end{align} \] また \(\frac{∂S^ϵ (t)}{∂ϵ} ~の~ ε=0\) での値はまさに \(A_S\) と同じなので、右辺2行目の第1項は下記のようになります。 \[ \left[∫_0^T λ(t) \frac {∂φ(t)}{∂S^ϵ (t)} \frac {∂S^ϵ (t)}{∂ϵ} dW(t) +∫_0^T λ(t) \frac {∂φ(t)}{∂S^ϵ (t)}\frac {∂S^ϵ (t)}{∂ϵ} dW(t) \right]|_{ϵ=0} =2∫_0^T λ(t)b(t)A_S (t)dW(t) \] さらに右辺の第 2項と第 3項は ε=0 で 0 になるので、消えて、最終的に \(B_S\) は下記のようになります。 \[ B_S=2∫_0^T λ(t)~b(t)~A_S(t)~dW(t) \tag{7.26} \] この式の被積分関数の中にある \(A_S (t)\) は 7.24 式の通り、伊藤積分になるので、7.26 式は、伊藤2重積分になります。  

4.3 
最後に、\(C_S\) ですが、同様に、7.25 式の右辺 2 行目の [ ] 内を再度 ε で微分し、ε=0 を代入すれば下記のように求まります。(解析のプロセスは省略します。) \[ C_S=3∫_0^T λ(t)~c(t)~A_S (t)^2 ~dW(t)+3∫_0^T λ(t)~b(t)~B_S (t)~dW(t) \tag{7.27} \] これで、\(A_S,B_S,C_S\) が求まり、\(S^ϵ (T)\) のウィーナー・カオス開が出来ました。

4.4 
同様に、\(Y^ϵ (T)\) の伊藤テイラー展開を、同じ解析プロセスで求めます。すると下記式のようになります。 \[ A_Y=∫_0^T λ(t)~ S_0 ~dW(t) \tag{7.28} \] \[ B_Y=2∫_0^T λ(t)~ \bar b ~ A_Y (t)~dW(t) \tag{7.29} \] \[ C_Y=3∫_0^T λ(t)~\bar c ~ A_Y (t)^2~dW(t)+3∫_0^T λ(t)~\bar b ~B_Y (t)~dW(t) \tag{7.30} \]

 

5.  S(T)とY(T)の確率分布ができるだけ近くなるような \(\bar b,~\bar c\) を求める

以上で、\(S^ϵ (T),~Y^ϵ (T)\) のウィーナーカオス展開が出来ました。これを基に、ϵ=1 における、\(S^1 (T)-Y^1 (T)\) の分散が、出来るだけ小さくなるような \(\bar b,~\bar c\) を求めていきます。求めるべき値を \(\bar b ^* , \bar c ^*\) と置くと、 

\[ \bar b ^* , ~ \bar c ^* = arg \min_{\bar b,~\bar c}⁡E \left[(S^1 (T)-Y^1 (T))^2 \right] \] となるような \(\bar b ^*,~\bar c ^*\) を求めれば、両者の T 時の確率分布が非常に近くなります。

5.1  
ウィーナー・カオス展開した \(S^1 (T)~と~Y^1 (T)\) の差は、以下のような形で表現できます。見ての通り、展開式の定数項と 1次の項は、相殺されて 0 になり、2次と3次の項のみ残ります。 

\[ \begin{align} S^1(T)-Y^1(T) & =ϵ^2 ~ I_1 (\bar b ;T) + ϵ^3~ I_2 (\bar c;T) + \mathcal O (ϵ^4) \\ & = I_1 (\bar b;T)+I_2 (\bar c;T)+ \mathcal O (ϵ^4 ) \tag{7.31} \end{align} \]           但し \[ \begin{align} I_1 (\bar b;T)& =∫_0^T λ(t)~(b(t)-\bar b)~ A_S (t)~dW(t) \\ I_2 (\bar b, \bar c;T) & =\frac 1 2 ∫_0^T λ(t)~(c(t)-\bar c)~ A_S (t)^2 ~ dW(t) \\ &~~~~~+ \frac 1 2 ∫_0^T λ(t)~b(t)~ B_S (t)~dW(t) \\ &~~~~~- \frac 1 2 ∫_0^T λ(t)~ \bar b B_S (t)~dW(t) \end{align} \] 上の式にある2つの伊藤積分 \(I_1 (\bar b;T)~ と~I_2 (\bar b, \bar c;T) \) は確率変数になります。従って、\(S^1 (T)-Y^1 (T)\) の分散を最小にする為には、\(I_1 (\bar b,;T) ~ と ~ I_2 (\bar b, \bar c;T) \) の分散を最小にする \(\bar b ^*,~ \bar c ^*\) を求めればいい事になります。

5.2  
まず \(I_1 (\bar b;T)\) の分散は、下記式のようになります。 \[ \begin{align} E\left[I_1 (\bar b;T)^2 \right] & =E \left[ \left(∫_0^T λ(t)(b(t)-\bar b)~A_S (t)~dW(t)\right)^2 \right] \\ & =∫_0^T λ(t)^2 ~(b(t)-\bar b)^2~ E[A_S t)^2]~dt \tag{7.32} \end{align} \] ここで、被積分関数にある \(E[A_S (t)^2 ]\) ですが、7.24 式にある通り、\(A_S (t)\) も伊藤積分であり、従ってガウス分布する確率変数になります。その 7.24式から、\(A_S\) の T 時の分散は \[ S_0^2 v(T)^2~~~~但し~ v(T)^2=∫_0^T λ(t)^2 dW(t) \] となります。これを、上式に代入すれば下記のようになり \[ \begin{align} E \left[I_1 (\bar b;T)^2 \right] & =∫_0^T λ(t)^2~ (b(t)-\bar b)^2~E \left[A_S (t)^2 \right]~dt \\ & =∫_0^T λ(t)^2~ (b(t)-\bar b)^2~ S_0^2~ v(t)^2~ dt \tag{7.33} \end{align} \] そしてこの値が最小値を取る条件は、下記のようになります。 \[ \frac {∂E \left[I_1 (\bar b;T)^2 \right]}{∂ \bar b ^*} = 2S_0^2 \left[\bar b ^* ∫_0^T λ(t)^2~ v(t)^2~ dt -∫_0^T b(t)~λ(t)^2~ v(t)^2~ dt \right]=0 \] ここから、\(\bar b ^*\) は下記のように求まります。 \[ \bar b^*=\frac {∫_0^T b(t)λ(t)^2 v(t)^2 dt}{∫_0^T λ(t)^2 v(t)^2 dt} \tag{7.34} \] これを下記のように書き直せば、\(b(t)~と~\bar b^*\) の関係が分かり易くなると思います。 \[ \bar b^*=∫_0^T b(t)~ w(t)~dt,~~~~~~~ w(t)≡\frac {λ(t)^2 v(t)^2}{∫_0^T λ(t)^2 v(t)^2 dt}   \tag{7.35} \] この式が意味するのは、Y(T)の分布が S(T)の分布に最も近くなるのは、Y(T)の定数パラメータ \(\bar b^*~\)を、瞬間分散値でウェイト付けされたb(t)の平均に設定すれば良いという事です。

5.3  
次に、\(\bar c^*\) を求めます。上記と同様のステップで、\(I_2 (\bar b, \bar c;T)\) の分散が最小になるような \(\bar c^*\) を求めます。その時、\(\bar b\) については、すでに導出した \(\bar b^*\) を使います。すると、\(I_2\) の式の第2項と第3項は、極めて近くなるので、相殺され、第1項のみで近似できます。すなわち \[ I_2 (\bar b ^*, \bar c;T)^2 ≈ \frac 1 2 ∫_0^T λ(t)~(c(t)-\bar c)~ A_X (t)^2~ dW(t) \tag{7.36} \] ここから、\(I_2\) の分散を最小にするような \(\bar c^*\) は下記式のようになります。(解析のプロセスは飛ばしますが、基本的に \(\bar b^*\) を求めた方法と同じです。) \[ \bar c^* =∫_0^T c(t)~q(t)~dt,~~~~~ q(t)≡\frac {λ(t)^2 v(t)^4}{∫_0^T λ(t)^2 v(t)^4 dt} \tag{7.37} \]

これで、\(X(T)~と~Y(T)\) の分布が、できるだけ近くなるような定数パラメータ \(\bar b^*,~\bar c^*\) が求まりました。それを使えば、Y(T)によるヨーロピアンオプションの価格式が、前のセクションで求めた解析解が使え、それがS(T)のヨーロピアンオプション価格の近似式になります。 

 

以上、非常に難解な数学のテクニックを使って、時間依存の skew 関数を持つ Local Volatility Model での、ヨーロピアンオプション価格の近似式を導出しました。実務では、Local Volatility Model を、単独で使う事はあまりないので、上記のテクニックが必要になる場面は殆ど無いと思います。しかし、次の Stochastic Volatility Model で似たようなテクニックを使うので、その参考の為に、考え方のプロセスを解説しました。 

 

目次

Page Top に戻る

// // //