上級編 5.  マルコフ汎関数モデル 

5.3   ニュメレール価格の確率分布の導出

5.3.6   Volatility Smile カーブの Interpolation と Exptrapolation

セクション5.3.1 で、ニュメレールの確率分布導出アルゴリズムを説明しましたが、その中で、ヨーロピアンオプション価格の市場データの Interpolation-Extrapolation は、慎重に行う必要があると述べました。それについて、若干の説明をしたいと思います。これは、MFM に限った事ではありませんが、MFM ではニュメレールの確率分布を導出するアルゴリズムの中で、Smileカーブの Interpolation-Extrapolation が適切でないと、計算が収束しない可能性が出るので、特に重要です。 

<  時間軸方向での Arbitrage Free の条件  >

時間軸方法への Interpolation は、どの文献でもあまり注意を払われていません。時間軸の方向でも Arbitrage Free の条件を満たす必要がありますが、市場データで、時間軸方向での異常値はあまり見かけないのと、市場データが Arbitrage Free でさえあれば、単純な Interpolation 法でも、Arbitrage Free の条件を満たすので、あまり気にする必要はないでしょう。ちなみに、時間軸方向での Arbitrage Free 条件は、“時間軸方向に対して分散値 \(\int_0^t σ(u)^2 dt\) が単調増加関数である事”となります。よほど変な Interpolation 法(必要以上に高次な Spline 法とか)を取らない限り、この条件は満たされると思います。 

<  ストライク軸方向での Arbitrage Free の条件  >

問題は、各行使日におけるストライク軸での Interpolation-Extrapolation 法になります。市場で観測されるオプション価格は、特に Deep Out of The Money や Deep In The Money の領域で、流動性の問題や、値洗いの頻度の問題から、価格に異常値が出やすくなります。それをそのまま使って、不用意に Interpolation や Extrapolation を行うと、価格が Arbitrage Free でなくなる可能性があります。特に、最も外側のストライクから Extrapolation された領域が問題になります。具体的には、そういった領域では、価格に内包されているフォワード金利の確率密度がマイナス(そうなるともはや確率ではありませんが)になるような事が起こり得ます。 

オプション価格(式)がストライクKに対して2階微分可能であれば、それは、対象資産価格(あるいは金利)が、ストライクKに到達する確率密度を表します。従って、もしオプション価格式が解析的に求まり、それが2階微分可能であれば、その2階微分の値は必ずプラスでなければなりません。またヨーロピアンオプション価格が、解析的に求まらなくても、ストライクに対して連続で求まるのであれば、差分を使って確率密度を求める事も可能です(5.11式をさらにもう一回差分すればよい)。その場合、ストライクKに対して、オプション価格が単調増加(Putオプションの場合)あるいは、単調減少(Callオプションの場合)で、かつ下に凸(Convex)になっていなければなりません。Interpolation-Extrapolation法を不用意に使うと、導出されるオプション価格が、その条件を満たさなくなります。従って、Interpolation-Extrapolation後のVolatility Smileカーブが、Arbitrage Freeかどうかは、2階微分あるいは2階差分を事前計算する事によって、チェック可能です。 

<   ストライク軸方向でのInterpolation-Extrapolatino の方法  >

実務では、様々な Volatility Smile カーブの Interpolation-Extrapolation 方法が使われているようです。市場データが得られるストライクの点では、必ず市場価格に一致させる方法(Kahale ”Smile Interpolation and Calibration of the Local Volatility Model”など)と、モデルのパラメータを調整しできるだけフィットさせるものの、完全な一致はあきらめる方法(Local VolatilityモデルやStochastic Volatilityモデルや、それを修正した、パラメトリックな補間関数など)があります。 

Kahale の方法は、補間されたカーブが2階微分可能で、Arbitrage Free の条件を満たすので、与えられた市場価格に異常値が無ければ、有効な Interpolation-Extrapolation 法になります。Kahale は、Volatility Smile カーブ描写のための補間関数として、ヨーロピアンオプション価格に関する Black の公式に、ストライクkに対する一次関数を加えた関数形を提示しています。式は下記のような形です。 (N()は標準正規分布関数)

\[ c(k)=c_{f.Σ,a,b}(k)=f N(d_1)-k N(d_2)+ak+b \\ ~~~~~ where~~~~d_1= \frac{ \ln{\frac f k }+Σ^2/2 }{Σ} ~~~~d_2=d_1-Σ \]

右辺の第1項と第2項(\(f N(d_1 )-k N(d_2 )\))は、f をフォワード価格、k をストライク、Σ を Volatility とすれば、Black の公式そのものです。それに、第 3 項と第 4 項のストライク k に対する一次関数を加えています。この一次関数によって、Black の公式で描かれる価格曲線を、b だけシフトし、a だけ回転させる事になります。この式は、k に対して2階微分可能です。また、f と Σ をフリーパラメータとして、結節点において、補間関数を滑らかになるようにできます。ただ、この方法は、市場データが明らかな異常値を示している場合は、そのまま使えません。 

Local Volatility モデルや Stochastic Volatility モデルや、それを加工したパラメトリックな補間関数を使う方法では、市場データと完全に一致させる事はできません。しかし、市場データに異常値が含まれている場合は、それを無視して、ある程度合理的に推定される Volatility Smile カーブを描く事ができます。従って、時価会計上はそのまま使えませんが、ポジション・リスク管理上は、こちらの方法を使う事が多いと思われます。実務では、Stochastic Volatility モデルの一種である SABR モデルが、(近似式ですが)解析解でオプション価格を計算できるので、よく使われているようです。ただ、SABR モデルを金利オプションの Smile カーブの Interpolation に使う場合、ここもとの超低金利やマイナス金利環境では、金利の下限方向の分布の裾で Smile カーブが極端な形を取り、Arbitrage Free でなくなる可能性があります。MFM でこれを使う場合は、計算が収束しなくなるので注意が必要です。 

 

目次

Page Top に戻る

// // //