上級編 7.  Local Volatility Model とStochastic Volatility Model 

7.2  Local Volatility Model 

7.2.2  CEV Model (Constant Elasticity of Variance Model) 

7.2.2.1   モデルの形

CEV model は、一般的に次のような形の SDE で表現されます。ドリフト項 = 0 なので、S(t)はニュメレールとの相対価格に相当します。 

\[ dS(t)=λ~S(t)^p~dW(t),~~~~~~~~~ λ,~~p~\gt 0 \tag{7.3} \]

ここでは、λ,p とも定数と仮定します。これらを時間に依存する関数 \(λ(t),~~p(t)\) とする事も可能ですが、解析のプロセスは各段に難しくなります。λ は、Volatility の絶対水準を決めるパラメータです。それに、\(S(t)^p\) を掛けることで、Volatility 水準が、\(S(t)^p\) に比例する事を意味します。なぜこのような関数形になるかという経済的・統計的分析が行われた訳ではなく、単に、Tractability(解析の容易さ)が優れていることと、市場価格に内包されている Volatility Skew にある程度フィット可能、という理由からだけです。但し、パラメータ p だけで skew カーブを表現するには限界があり、フィットもあまりよくありません。Skew を表現するモデルのパイオニアとしての役割を果たしましたが、今このモデルが単独で使われる事はまず無いと思います。 

このモデルで、p=1 なら、Black Model になります。また、p=1/2 で、CIR モデルと似た形になります(但し、CIR には中心回帰するドリフト項があります)。さらに、p=0 で、ガウスモデルになります。通常はp が 0 から 1 の間で使われ、p は市場で観測される Volatility Skew の形状に Calibration されます。p>1 で smile カーブの表現も可能ですが、実践では、あまり使われていないと思います。 

p=1で Black Model で p=0 でガウスモデルなので、0< p < 1 の範囲では、分布の形状は、その中間の形になるのは、容易に推察できるでしょう。Black Model では確率変数の分布は対数正規分布となり、0 を下限(但し、そこは到達不可能な特異点)とし、平均(初期値-分散/2)をピークに +∞ 方向へ緩やかに分布の裾野が伸びて行きます。一方ガウスモデルでは、S(t) の分布は正規分布となり、平均は初期値 S(0) で、そこから左右対象に ±∞ 方向に分布の裾野が伸びて行きます。従ってガウスモデルでは確率変数がマイナスになることもあります。 

p が 0 < p < 1 の範囲では、Volatility が確率変数 S(t)に依存する度合いは、Black Model より弱くなります。すると、S(t) が大きくなるにつれ、Volatility の絶対水準はBlack Model 対比、小さくなります。その結果、S(t) の分布は、Black Model 対比 S(t)が低い方へ偏ります。但し p=0 にならない限り、確率変数が 0 になる事はあっても、マイナスの領域に入る事はありません。従って、対数正規分布とガウス分布の中間にあると言っても、分布の下限はあくまで 0 です。そのような確率分布のもとでの Payoff の期待値すなわちオプション価格は、S(t)の低い方で、Black Model対比、大きくなります。それを、Black Model の Implied Volatility に換算すると、S(t)が低い方でより大きくなり、逆に S(t)の大きい方で小さくなります。すなわち、ストライク軸にそって Implied Black Volatility のカーブを描くと、右下がりの形状を示しますが、これがいわゆるVolatility Skew と呼ばれているものです。 

CEV モデルは、上式のような最もシンプルな形であれば、確率密度関数が解析的に求まり、そこからオプション価格(Payoffの期待値)も解析的に求まります。以下にそれを簡単に解説したいと思います。 

 

7.2.2.2   CEVモデルの数学的な特徴

モデルの解析のプロセスに進む前に、CEV モデルの数学的な性質に若干触れておきます。 7.3 式のモデルは、次のような特徴があります。 

  • すべての解(すなわちdS(t)の積分)は発散しない。従って、何とかすれば解は求まる。
  • 0 < p < 1 の領域では、S(t)は、マイナスになる事は無いが、0 に到達可能(0 になる確率が 0でない)。p ≥ 1 の領域では、0 に到達不能
  • 0.5 < p < 1 の領域では、S(t)が 0 に到達した場合、確率変数は以後 0 に留まる。
  • 0 < p < 0.5 の領域では、S(t)が 0 に到達した場合、確率変数は以後 0 に留まる場合と、0 から跳ね返されて再び正の領域で確率変動する場合がある。すなわち、SDEの解が2通り存在するという事です。
  • 0 < p ≤ 1 の領域では、S(t)は、マルチンゲールとなり、p ≥ 1 の領域では、S(t)は優マルチンゲールとなる。

これらの数学的な証明は、私に説明能力はなく、ご自身で数学の専門書をご覧ください。これらの特徴の内、p が 0< p < 0.5 の領域で決められた場合の取り扱い、すなわち2通りの解の内どちらを使うかが問題になります。Andersen-Piterbarg本では、S(t)が 0 に到達した場合、そこへ留まる方の解を選択しています。理由は、0.5 < p < 1 の場合(0 に到達するとそこに留まる解で一意に決まる)と整合性があるからです。また、S(t)が株価の場合は、それが 0 になる事は会社の倒産を意味し、倒産後は株価が 0 のままと考えるのが自然です。但し、金利の世界では、マイナス金利が現実的にあり得るようになったので、0 に留まるか跳ね返るかどうかはもはや問題でなくなり、むしろ、マイナス金利を許容するモデルをどう構築するかの問題に置き換わっています。 

 

7.2.2.3   CEV モデルを使ったヨーロピアンオプション価格の解析解

さて、7.3 式のモデルからは、S(t)の確率密度関数が解析的に求まり、さらにそれを使って、ヨーロピアンオプションの価格式が解析的に求まります。その解析プロセスの説明は省略しますが、Andersen-Piterbarg本で紹介されている手順だけ、簡単に説明しておきます。 

  1. 0 < p < 1 の場合、S(t)が 0 に到達する可能性があり、まずその到達確率を求めます。
  2. その到達確率を加味して、S(t)の確率密度関数を求めます。
  3. 確率密度関数が解析的に求まれば、数値積分などを使って、Option Payoff の期待値を求める事ができ、様々な Payoff 関数に対応可能です。
  4. それでも十分ですが、さらに、シンプルなヨーロピアンオプションであれば、価格式が解析的に求まります。

まず、1.の、S(t)がオプション期日Tまでの間に 0 へ到達する確率ですが、S(t)が最初に 0 に到達する時点を \(\tau\) とすると、以下のように S(t) を X(t) へ変数変換したうえで、ガンマ関数を使って下記式で求まります。 

\[ \begin{align} & X(t)=\frac{S(t)^2(1-p) }{(1-p)^2} \\ & P_t (τ \lt T | τ \gt t)=G \left(|θ|,\frac {X(t)}{2λ^2(T-t)}\right), ~~~~~T \gt t  \\ & ~~~但し~~~ θ=\frac {1}{2(p-1)},\\ & ~~~~~~~~~~~~~ G()はComplementary~ Gamma~ function~(相補Γ関数) \end{align} \]

Complementary Gamma function(相補ガンマ関数)とは、下記式の通り、不完全ガンマ関数 \(Γ(a,x)\) を、ガンマ関数 \(Γ(a)\) で割ったもの。 

\[ G(a,x)~ := ~Γ(a,x)/Γ(a) , ~~~~~ Γ(a)=∫_0^∞ u^{a-1} e^{-u} du,~~~Γ(a,x)=∫_x^∞ u^{a-1} e^{-u} du \]

なぜそうなるかの説明はご容赦下さい。私にその説明能力はなく、詳しく知りたい方は、専門の数学書をあたって下さい。 

次に、2.の遷移確率密度関数ですが、やはり S(t)を変数変換した X(t)について下記式のように求まります。 

\[ \begin{align} & q(X(T)|X(t)) = \frac {1}{2λ^2(T-t)} exp \left( -\frac{X(T)+X(t)}{2λ^2 (T-t)} \right) ×\left( \frac{X(t)}{X(T)} \right)^{-\frac θ 2 }× I_{|θ|} \left(\frac{ \sqrt{X(T)X(t)}}{λ^2 (T-t)}\right) \\ & θ=\frac {1}{2(p-1)},~~~~X(t)=\frac{S(t)^{2(1-p)}}{(1-p)^2 } \end{align} \]

但し、式中にある \(I_a (x)\) はオーダーが a の修正第1種ベッセル関数で、下記式のようにガンマ関数を使った関数になります。無限級数なので、そのままでは値は求まらず、近似式を使うことになります。 

\[ I_a (x)=\sum_{j=0}^∞ \frac{\left(\frac x 2 \right)^{a+2j}}{j!Γ(a+j+1) } \]

確率密度関数が求まれば、数値積分を使うことによって、Option Payoff の期待値、すなわちオプション価格が求まります。それでも十分ですが、さらにシンプルなヨーロピアンオプションであれば、価格式が解析的にも導出でき、以下のようになります。 

\[ EuropeanCall_{CEV} (t,S(t);T,K)=S \left(1-Υ(a,b+2,c)\right)-K~Υ(c,b,a) \tag{7.4} \]

但し、  

  • \(Υ(x,ν,γ)\) は非心カイ2乗分布の分布関数で 確率変数が x 以下となる確率、ν は自由度、γ は非心パラメータ
  • また、a,b,cはそれぞれ下記のように定義される。 \[ a= \frac {K^{2(1-p)} }{(1-p)^2 λ^2 (T-t)},~~~~~ b=|p-1|^{-1},~~~~~~c= \frac {S^{2(1-p)} }{(1-p)^2 λ^2 (T-t)} \]

解析解と言ってますが、非心カイ2乗分布の累積分布関数は、数値解で近似値を求める事になります。その具体的なアルゴリズムは、“Continuous Univariate Distributions, Volume 2” by Johnson et al. “Computing the non-central chi-squared distribution function” by Ding などに掲載されているそうなので、詳しくはそちらをご覧下さい。なお、分布関数の解析解で求まらず、近似解を使うのは、Black-Scholesモデルで使われる標準正規分布関数も同じです。(正規分布は、密度関数は解析的に求まっているものの、それを積分した分布関数は解析的に求まっていません。Excelなどに内包されている、標準正規累積分布関数のAdd-IN関数も、近似式です。) 

 

目次

Page Top に戻る

// // //