上級編 6.  Libor Market Model 

6.2  古典的なLibor Market Model

6.2.1   はじめに

ではいよいよ、Libor Market Model("LMM")の解説に入ります。とは言っても、LMM のバリエーションは膨大であり、そのすべてを解説できません。まず、1990 年代の、BGM や Jamishidian の論文をベースにした古典的な LMM の紹介からスタートします。既に述べた通り、現在の超低金利環境下では、もはや初期の LMM を、そのままの形で使う事はできません。しかし、様々なバリエーションの基となるので、まずそこから理解するのは大事だと思います。
   初期の LMM は、複数のフォワード金利が相関を持ちながら、幾何ブラウン運動して拡散していく様子を記述したものです。n 個のフォワード Libor の(連立)確率微分方程式("SDE")で記述すると下記のような形になります( (6.1)式の再掲です、但しここでは、確率測度を特定していません。 以下も前のセクションと同様、スカラ、ベクトル、行列の表記を、スカラは細字(a,b,t,x,y,X,Y,N,M,α,β,σ,など)、ベクトルは小文字の太字(x,y,α,β,σ,ωなど)、行列は大文字の太字上(X,Y,Α,Β,Σ,)を極力使うようにします。)  

\[ \frac{dL_i(t)}{L_i (t)}= μ_i (t,L(t))dt+σ_i (t)∙ {\bf C∙dw(t)},~~~~~~i=1,2,…,n \tag{6.1} \]

但し 
   ・ \( \bf dw(t)\) は m 次元 (m≦n) の独立なブラウン運動ベクトル。
   ・ C は n × m 次の行列で、Libor の相関の情報を保持。すなわち相関行列を ρ とすると \( \bf ρ=C∙C^{\top} \)。
   ・ \( \bf σ_i(t)\) は Libor の変化率のVolatilityを表す m 次元のベクトル。但し i 番目の要素のみ \(σ_i\) のスカラ値が入り、それ以外は 0 のベクトル。  (従って、(1)式の拡散項係数は \( \bf σ_i(t)∙C\) と、ベクトル × 行列 で表現されていますが、\( \bf σ_i(t)\) の i 番目の要素と、C の i 行目のベクトルを使って \(σ_i(t)∙ \bf c_i\) と スカラ × ベクトル と表現しても、同じ意味になります。)

さて、モデルを特定するには、上の SDE のドリフト項と拡散項の係数を特定する必要があります。拡散項計数、すなわち Volatility を記述する関数と、相関行列 ρ については、主に、現時点の市場データや、過去の市場データをベースに、なんらかの関数形にフィットするように求めます。それらの関数形には様々なバリエーションがあり、かつ Calibration 等に膨大な事前準備が必要な部分です。これについては、後で詳しく説明する予定ですが、その前に、まずドリフト項計数 \(μ_i(t,\bf L(t))\) を特定していきます。既に述べた通り、"市場がアービトラージフリーであれば"、大半の Libor の SDE に特定の形のドリフト項が発生します。以下に、その式を、測度変換の公式を使って求めます。 

 

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