基礎編 4. オプション 

4.1 オプションの価格をどうやって決めるか?

4.1.4 ドリフト項の係数と拡散項の係数の特定

先ほどこの確率過程の特定が簡単でないと述べましたが、2つの項の内、特にドリフト項の特定が悩ましいのです。株式でいえば、「将来の株価の平均はどの位になるのか?」いう問題です。 

様々な株式の”価格変動率”の分布を調べてみると、市場があまり混乱していないような場合は、おおむね正規分布に近い分布が観測されます(”変動率”が正規分布するとは、株価自体は対数正規分布する事を意味します)。正規分布は、2つのパラメータ、すなわち平均と標準偏差によって一意に決まります。すなわち、上記の確率過程の式の”ドリフト項の係数”と”拡散項の係数”によって分布が一意に決まるという事です。では、これをどう求めるのでしょうか?

株価や為替市場でみると、拡散項の係数であるVolatilityは短期的には不安定ですが、長期的には比較的狭い範囲に収まっています。拡散項の係数\(\sigma ( )\) をどう特定するかについては、基本的に過去のデータを基準に推定するというアプローチになります。過去のデータを使う事で、ある程度の客観性が保たれている訳です。 

では、ドリフト項\(\mu ( )\) は客観的に特定できるのでしょうか? 株価の確率過程におけるドリフト項については、CAMPの考え方から、リスクフリーの金利にリスクプレミアムを上乗せした値を使うという考え方があります。ところが、このリスクプレミアムは、客観的な値が存在している訳ではありません。投資家のリスク選好によって、投資家毎に決まる値と考えられています。さらに言えば、CAPMでは、金融商品の現時点の価格は、効率的市場仮説のもと”すべての情報を勘案した上で”おおむね均衡状態にあって、そこからからの期待収益がリスクフリー金利にリスクプレミアムを上乗せしたものになるという考え方です。そうすると、新たな情報が出た瞬間に、その値が変化してしまいます。実際に株を売買する投資家は、情報が出た瞬間に、株価が均衡点から離れていると考えているから売買する訳で、彼らが予測する将来の株価の平均は、新たな情報が出る度に変化してしまいます。すなわち、将来の株価の平均の予測は、新たな情報が出る度に変化し、さらに相場観も含めて投資家毎に異なっていて、客観的に決まらず、かつ極めて不安定という事になります。 

ところが、Black-Scholesは、この平均すなわちドリフト項の係数について、一定の条件のもとでは、リスクフリー金利を使っていいと言い切ったのでした。正確にはBlack-Scholesはそのような言い方をした訳ではありませんが、彼らが導出したヨーロピアンオプションのオプション価格式は、結果的にそう言っているのと同じ形になっています。リスクフリー金利は、CAPMにおいても、全ての投資家にとって共通です。そうすると、オプション価格が、リスクプレミアムや、新たな情報に基づく投資家ごとの予測・相場観といった主観的な値を使うことなく、客観的に計算できるようになります。この理屈の立て方が画期的であった為、彼らの論文以降、金融オプションの価格モデルに関する研究に大きな影響を与え、発展していく事になりました。 

Black-Scholesの理屈付けの前提となる、「一定の条件」が、非常に重要ですが、それについては、後で説明します。 

 

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