基礎編 3. スワップ 

3.2 スワップ市場の誕生と成長

3.2.1 イントロダクション

最初のスワップ取引は、1981年に取組まれたWorld BankとIBMの間のカレンシースワップ取引と言われています。その後の、スワップを中心としたデリバティブズ市場の拡大は、債券や株式といった金融商品の現物市場を凌駕し、みなし元本の残高がピークで7京円を超えるというとてつもない規模まで行きました。おそらく、最初にこの取引をアレンジした人も、ここまでくるとは思わなかったでしょう。 

私自身も、80年代の半ばからデリバティブズ関連の業務に携わる事になりましたが、それ以降、デリバティブズ市場の拡大は、まさに目を見張るものでした。市場の規模だけでなく、商品の多様化もそうです。スワップ取引の原則は、「現在価値が等価のCash Flow同士の交換」です。従って、現在価値計算が可能であれば、どんなCash Flowでも交換可能だろうという発想になります。そこから、様々なCash Flow交換契約が登場していきました。Basis Swap、Constant Maturity Swap、Total Return Swap、Credit Default Swap、Inflation Swap、さらには、保険の商品とも思えるWeather Derivatives、Casualty Swap等々。また、Cash Flowにオプション性を付した、Swaption等々。いずれも、金融工学の進展により、合理的な現在価値計算方法が考案された事により、市場に登場したものです。 

現在の取引残高(みなし元本ベース)は、2017年末の時点で、約6京円(6000兆円の10倍)でした。(Source: Bank of International Settlement

2013年のピーク時には、7京円を超えており、日常であまり使わない桁の金額にまで拡大しました。BISは取引残高の内訳を、種類別に公表していますが、金利スワップを中心とする金利関連のデリバティブズ取引が大半を占めています。GSIBに含まれている日本のメガバンクは、海外のGSIBに比べると、デリバティブズ市場での業務はかなり控えめです。それでもデリバティブズ取引の残高は、各行とも数百兆円の規模で、バランスシートの額を上回っています。各銀行のデリバティブズ取引残高は、有価証券報告書に記載されています。その中で最大の、三菱フィナンシャルグループの2017年度末のデリバティブズ残高は、900兆円を超えていました(2017年度 有価証券報告書の170ページに記載)。 また、JP Morgan Chaseでは5000兆円を超えていました。この額は、バランスシートの額の10倍を優に超えています。 

スワップを中心とするデリバティブズ取引の規模を、みなし元本ベースで測るのは、少し誤解を招くかもしれません。金融仲介業者のブックに積みあがったデリバティブズ取引の大半は、お互いにヘッジ関係にある取引の集合となっており、ネットのリスク量は、グロスと比べると、はるかに小さいからです。かといって、みなし元本の額を全く考えなくて良いという訳ではありません。金融危機時における流動性リスク、事務リスクなどは、取引ボリュームに比例して増大します。また規制資本の計算においては、リスク量の相殺を限定的にしか認めないので、みなし元本のボリュームも、一定の意味を持ちます。 

このスワップを中心とするデリバティブズ取引市場は、なぜここまで拡大できたのでしょうか? 

 

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