上級編 4.  Short Rate Models (後編) 

4.6  対数正規 Short Rate Model

4.6.1  はじめに

これまで、Short Rate Model 群の中で、瞬間短期金利の確率過程がガウス分布するモデル群(Gaussian Short Rate Models)と、平方根過程をとるAffine Term Structure Modelと呼ばれるグループについて解説してきました(Section 4.3、4.4 4.5)。 このセクションでは、瞬間短期金利の確率過程が、対数正規分布すると仮定したモデルを中心に話を進めたいと思います。 

対数正規モデル群は、Dothan モデル(”On the term structure of interest rates”1978)を嚆矢とし、その後発表された、Black-Derman-Toy モデル (”One factor model of interest rates and its application to Treasury bond options” 1990)や、それを改良した Black-Karasinski モデル(“Bond and option pricing when short rate are lognormal”1991)が、その代表的なモデルです。 

対数正規モデルのグループも、Short Rate Model の基本的な考え方をベースに理論が組み立てられています。すなわち、長期金利での運用リターンは、(リスク中立測度下では)短期金利の運用を繰り返した累計リターンと一致するというもので、ゼロクーポン債価格式で表せば下記のようになるのでした。 

\[ P(t,T)=E^{Q_{RN}} \left[e^{-\int_t^T r(u)du} \right] \]

( \(E^{Q_{RN}}~[~]\) は、リスク中立測度を使って計算した期待値演算です。) 

対数正規モデルは、右辺にある確率変数 r() が対数正規分布すると仮定し、モデルの一般的な表現は下記のようになります。 

\[ d \ln r(t) = μ (t, \ln r(t))dt+σ(t)dW(t) \]

その結果、金利がマイナスになる可能性は排除されますが、ガウスモデルや Affine Term Structure Model("ATSM") のように、ゼロクーポン債価格式やオプション価格式が、解析的に求まりません。(Dothan モデルでは、解析的に求まりますが、そもそもモデルが Arbitrage Free でないので、デリバティブズの価格評価に使えません。) 従って、モデルから将来のゼロクーポン債価格やオプション価格を求める為には、Tree 構造や有限差分法といった数値解析のテクニックを使う必要があります。また、拡散係数が確率変数 r(t) に依存する事から、Volatility を Calibration するたびに、Tree 構造全体を当初イールドカーブに再フィットさせる必要があります。その為、Calibrationのアルゴリズムが、ガウスモデルと比べると、各段に複雑化し、その結果、計算時間が時間のステップ数や状態変数のノード数のべき乗のオーダーで増加します。(ATSM もそうです。) 

さらに言えば、主要先進国で、金利が非常に低いレベルまで下がり、特にユーロ圏、スイス、日本のようにマイナス金利が常態化した通貨では、マイナス金利にならない点が逆に大きな問題です。仮にマイナスにならなくても、超低金利の状況では、Black Volatility Skew が、極端に傾斜がきつくなり、そのままの形ではもはや使えなくなっています。Black-Derman-Toy や Black-Karasinski モデルが発表された 1990年ごろは、Arbitrage Free な Term Structureモデルとして、実務において使われる場面は多かったと思いますが、現在これらのモデルを、そのままの形で使ってデリバティブズの価格評価をしているケースはまず無いと思います。という事なので、説明も簡単に済ませたいと思います。 

 

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