上級編 4. Short Rate Models (後編)
4.5 Affine Term Structure Model
4.5.5 中心回帰レベルパラメータの、当初イールドカーブへのフィッティング
θ(t)(中心回帰レベルパラメータ)については、解析的に求めると、式に瞬間フォワード金利カーブの傾きの項が含まれるという問題がありました。(上級編 Hull-Whiteモデル: 参照) 瞬間フォワード金利カーブは、特別なイールドカーブ構築方法を使わない限り、ノードポイントで非連続になり、至る所で、その傾きが特定できません。Hull-Whiteモデルの説明の所では、それを回避する為に、r(t)を変数変換し、かつ離散的にゼロカーブにフィットさせる方法を解説しました。(上級編“Hull-Whiteモデル:3項Treeの構築方法”)
ATSM でも同様に、中心回帰レベルを求める為に、まず r(t) を、以下のように変数変換します。
\[ x(t)=r(t)-f(0,t) \tag{5.38} \]この式の両辺を微分し、右辺にある \(r(t)~を~x(t)+f(0,t)\) におきかえると、
\[ \begin{align} dx(t)&=dr(t)- \frac{∂f(0,t)}{∂t} dt =(ω(t)-k(t)x(t))dt+σ(t) \sqrt{ξ(t)+βx(t)} dW(t) \\ 但し~~ & x(0)=0, \\ & ξ(t) =α+βf(0,t) \\ & ω(t) =k(t)θ(t)-\frac{∂f(0,t)}{∂t} dt-k(t)f(0,t) \tag{5.39} \end{align} \]このままだと、ω(t) の第2項が瞬間フォワード金利カーブの傾きになるので問題の解決になりません。この ω(t) を、離散時間のノード毎に、うまく当初イールドカーブにマッチするように求めます。
(i) まず x(t) について、先ほど定義した Extended Transform を導出します。r(t) の Extended Transform の 5.27, 5.28 式に \(r(t)=x(t)+f(0,t)\) を代入すれば、下記が導出できます。
\[ \begin{align} g(t,T;c_1,c_2 ) &= e^{-c_1 f(0,T)-c_2 \int_t^T f(0,u)du} E_t^{Q_{RN}} \left[e^{-c_1 x(T)-c_2 \int_t^T x(u)du} \right] \\ &=e^{-c_1 f(0,T)} \frac{P(0,T)^{c_2}}{P(0,t)^{c_2}} \exp\left[C_{t,T}(c_1,c_2) - B_{t,T}(c_1,c_2)~x(t)\right] \tag{5.40} \end{align} \]注: 5.28 式では、指数関数の肩を \(A(t,T)-B(t,T)r(t)\) としていましたが、ここでは \(C(t,T)-B(t,T)r(t)\) としています。同じ意味ですが、ω()を導出する為に、\(C(t、T)\) に注目するので、表記をAからCに変えたようです。
そして、この式中の \(B_{t,T}(c_1,c_2),~~C_{t,T}(c_1,c_2)\) は、下記の連立常微分方程式の解となります。
\[ \frac{dC}{dt} - ω(t)~B+ \frac 1 2 σ(t)^2~ ξ(t)~B^2=0 \tag{5.41} \] \[ -\frac{dB}{dt} + k(t)~B+ \frac 1 2 σ(t)^2~ β~ B^2=c_2 ~~~~ \tag{5.42} \]さて、この Extended Transform の式に、\(c_1=0,~c_2=1\) とすれば、g( ) はゼロクーポン債価格式になるのでした。そうしてみましょう。
\[ \begin{align} P(t,T) & =g(t,T;0,1)=e^{-0×f(0,T)} \frac{P(0,T)^1}{P(0,t)^1} \exp \left[ C_{t,T}(0,1) - B_{t,T}(0,1)~x(t)\right] \\ & =\frac{P(0,T)}{P(0,t)} \exp\left[C_{t,T}(0,1) - B_{t,T}(0,1)~x(t)\right] \tag{5.43} \end{align} \]さらに、ゼロクーポン債価格は満期日で1になるので、\(P(T,T)=\exp \left[C(T,T)-B(T,T)x(T)\right]=1\) から、
\[ C_{T,T}(0,1)=0,~~~B_{T,T}(0,1)=0 \tag{5.44} \]という終期条件が得られます。
(ii) さて、5.41, 5.42 式に含まれるパラメータ、k(t), σ(t) は、Piecewise Constant パラメータとして、市場データに Calibration し、既に求まっていると仮定しました。また、\(ξ(t)=α+βf(0,t)~ の右辺の~f(0,t)\) は当初イールドカーブから導出され、α、β も Calibration済で特定されていると仮定しました。従って、式を解くには、ω(t)の情報が必要になります。というか、それを求めるのがここでの目的でした。
ここで、5.41式で、t=0 とおけば
\[ g(0,T;0,1)=P(0,T) \exp\left[C(0,T;0,1)-B(0,T;0,1)~x(t)\right] \]という式が導かれます。左辺=P(0,T)なので、ここから、
\[ \begin{align} & \exp\left[C(0,T;0,1)-B(0,T;0,1)~x(0)\right]=1 \\ & ∴~~C(0,T;0,1)-B(0,T;0,1)~x(0)=C(0,T;0,1)-B(0,T;0,1)~\times 0=0 \\ & ∴~~C(0,T;0,1)=0 ~~~~ for~~all~~T \end{align} \]という条件が導かれます。すると、5.41 式の両辺を t=0 から T まで積分し、\(C(0,T;0,1)=0\) を代入すると、 ω(t) に関する下記のような Volterra 積分方程式が導出できま
\[ -\int_0^T ω(s)~B~ds+ \frac 1 2 \int_0^T σ(s)^2~ξ(s)~B^2 ds=0 \tag{5.45} \]これを、離散時間の区間毎に解けば、ω(t) が求まりますが、そのアルゴリズムは次のようになります。
(iii) ω(t) を求めるアルゴリズム
① 5.42式は、ω(t) が含まれていないので、まずこちらを求めます。離散時間を \(0=t_0 < t_1 < ⋯ < t_m = T\) とし、全ての \(t_i,=t_j\) の組合せにおいて、\(B_{i,j}\) を求めます。B の正負の符号を逆転させれば、5.24 式の解析解がそのまま使えます。
② ω(t) も Piecewise Constant な関数と仮定し、各区間における ω(t) の値を、\(ω_i=ω(t)_{t_i< t< t_{i+1}}\) と表記します。(Hull-Whiteモデルから3項 Tree を構築する際、イールドカーブにフィットさせる為のシフトパラメータも、そのように仮定していました)
③ \(t_i\) より前の \( ω_k,~~k<i~\) は既に求まっていると仮定し、\(ω_i\) を求めます。
④ まず
\(~~~~~~~~~ \Theta (t_i)= \frac 1 2 \int_0^{t_{i+1}} σ(s)^2~ξ(s)~B(s,t_{i+1})^2 ds -\int_0^{t_i} ω(s)~B(s,t_{i+1})ds\)
を計算します。(注: 一見5.45式と同じに見えますが。右辺の積分範囲に注意して下さい。第2項は \(t_{i+1}\) まで積分し、第1項は \(t_i\) まで積分した値です。)
⑤ 次に \( \Theta (t_i) - ω_i \int_{t_i}^{t_{i+}} B(s,t_{i+1})ds=0~~になるような~ω_i\) を求めます。(5.45式の第1項を \(t_i~から~t_{i+1}\) まで積分し、④式に加えています)
⑥ ③、④、⑤のステップを i=0,1,…,m-1 まで繰り返し、すべての区間における ω(t) を求めます。
これで、当初イールドカーブにフィットさせるパラメータ ω(t) が求まりました。