基礎編 6. クレジットデリバティブズ

6.3   クレジットデフォールトスワップの価格計算方法

6.3.3   ISDA Standard Model

6.3.3.4   Protection Legの期待値の求め方

CDSの価格式の中にあった、Protection Legの部分の価格の計算式を下記に再記します。 

\[ Protection~~ Leg=0.6\int_0^T D(τ) \left(-\frac{d\mathbb{Q}(τ)}{dτ}\right)dτ=0.6\int_0^T D(τ)λ(τ)e^{-λ(τ)τ} dτ \]

この式にある積分は、現時点から満期までの全期間をカバーしており、かつデフォールト強度 λ を \(\tau\) の関数とおいています。前のセクションで説明した通り、ISDA Standard Model を使うと、瞬間フォワード金利と、デフォールト強度は、カーブの Pillar間で定数となります(全体としてはpiecewise constantな関数:階段関数)。すると、この積分は、Pillar 間ごとに計算すれば解析的に求まり、それを足し上げる事で、全期間に渡る積分が計算できます。それを踏まえて、上の式を解析していくと、下記のようになります。  

\[ \begin{align} 0.6 \int_0^T D(τ)λ(τ)e^{-λ(τ)τ} dτ & =0.6 \sum_{i=1}^n \int_{t_{i-1}}^{t_i} D(τ)λ_ie^{-λ_i τ} dτ \\ & =0.6×\sum_{i=1}^n \left(D_{i-1}× \mathbb{Q}_{i-1}× λ_i× I_i\right), \\ & ~~~~~但し~~~  I_i=\int_{t_{i-1}}^{t_i} e^{-(f_i+λ_i)(τ-t_{i-1})} dτ \end{align} \]

(注:2行目は、
\( ~~~~~~~~~~~~~~~~ D(τ)=D_{i-1} e^{-\int_{t_{i-1}}^τ f_i dt}=D_{i-1}e^{-f_i (τ-t_{i-1})} \\ ~~~~~~~~~~~~~~~~~ e^{-λ(τ)τ}=\mathbb{Q}_{i-1} e^{-\int_{t_{i-1}}^τ λ_i dt} =\mathbb{Q}_{i-1} e^{-λ_i (τ-t_{i-1})} \)
の関係式を使って変換し、\(D_{i-1}~ と~ Q_{i-1}\) を積分の外に出した。) 

ここで、右辺にある \(I_i\) の定積分は、下記のように解析的に解けます。 

\[ \begin{align} I_i & =\left[\frac{-1}{(f_i+λ_i)} e^{-(f_i+λ_i )(τ-t_{i-1})} \right]_{t_{i-1}}^{t_i} \\ & =-\frac{e^{-(f_i+λ_i)Δt_i}-1} {(f_i+λ_i)} =-\frac{e^{-f_i Δt_i} e^{-λ_i Δt_i}-1} {(f_i+λ_i)} =\frac{1- \frac{D_i}{D_{i-1}} \frac{Q_i}{Q_{i-1}} } {(f_i+λ_i)} \end{align} \]

これを、先ほどの Protection Leg の価格式に代入すると以下のようになります。 

\[ \begin{align} 0.6×\sum_{i=1}^n \left( D_{i-1}× \mathbb{Q}_{i-1}× λ_i× I_i\right) & =0.6×\sum_{i=1}^n \left(D_{i-1}× \mathbb{Q}_{i-1}× λ_i× \frac{1- \frac{D_i}{D_{i-1}} \frac{Q_i}{Q_{i-1}} } {(f_i+λ_i)}\right) \\ & =0.6×\sum_{i=0}^n \left(λ_i \frac{D_{i-1}\mathbb{Q}_{i-1} - D_i \mathbb{Q}_i}{(f_i+λ_i)}\right) \end{align} \]

この式にある \(D_i~と~\mathbb{Q}_i\) は、各 Pillarにおける Discount Factor とサバイバル確率で、イールドカーブとクレジットカーブの Bootstrapping-Interpolationのアルゴリズムの中で求めます。\(f_i~と~λ_i\) は各 Pillar間の Piecewise constant な瞬間フォワード金利とデフォールト強度で、同様に Bootstrapping-Interpolation の中で求めます。それらを代入すれば、Protection Leg の期待値が求まります。 

尚、注意点ですが、上式の右辺は \(f_i+λ_i\) で割っているので、これが 0 になると、問題が起こります。\(λ_i\) はデフォールト強度で、理論的には、マイナスになってはいけません。しかし、クレジットカーブを構築しているなかで、ベンチマークの市場価格が、需給などにより極端に歪むと、マイナスになる可能性は否定できません。それは確率がマイナスになる事を意味するので、理論的にはあり得ず、市場価格が異常なのですが、現実には稀にですが観測される現象です。同様に 瞬間フォワード金利である \(f_i\) も理論的にはマイナスになってはいけないのですが、主要先進国の金利でマイナス金利が常態化し、現実にそういう事態が起こりました。その結果、\(f_i+λ_i\) がマイナスあるいは 0 になる可能性が出てきました。マイナスの場合は、理論的には問題ありですが、CDSの価格計算は可能です。しかし、0になった場合は、価格計算そのものが出来なくなるので、コンピューターでの計算アルゴリズムをプログラミングする際は、対応が必要です。ISDA Standard Modelでは、その対応がプログラミングされていますが、その結果、計算結果が若干不正確になるという問題が指摘されています。かなり実務的かつ専門的な問題なので、ここでは説明を省略します。詳しくは、OpenGamma社が出しているISDA Standard Modelの解説文書を参照して下さい。 

The Pricing and Risk Management of Credit Default Swaps, with a Focus on the ISDA Model 

 

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