基礎編 6. クレジットデリバティブズ

6.2  クレジットデフォールトスワップ

6.2.3  CDS契約の標準化

CDS取引では、前のセクションで説明した法的契約条項だけでなく、満期日や、Premium Legの金額(一般にスプレッドと呼ばれている)や支払い日、など、経済的な価値を決める契約条項も、標準化すべき強いインセンティブがあります。その理由のひとつは、標準化によって、商品性が統一され、取引の活発化、流動性の向上が期待できる事です。もうひとつは、デリバティブズ取引にかかる資本規制や、その他の規制から必要となってきたものです。 

金融機関がデリバティブズ取引を行った場合、そこから発生するリスクについて、リスクに応じた自己資本を積む事が要求されます。いわゆるバーゼル規制(BIS規制)と呼ばれるもので、国際的に活動する金融機関に対して、世界共通の自己資本比率規制がかけられます。それが銀行勘定にブックされているケースと、トレーディング勘定にブックされているケースで、若干取り扱いは異なるものの、デリバティブズ取引から発生する、金利リスクや為替リスクといった一般市場リスクと、与信供与や取引相手方のクレジットリスクから発生する個別リスクのそれぞれについて、リスク量を計算し、リスクに見合った自己資本を積む必要があります。規制の詳細の説明は、本サイトのスコープ外なので行いませんが、ポイントは、 

  • CDS取引では一般市場リスクと取引相手方に対する個別リスクに加え、Reference Entityに対する個別リスクで自己資本を積む事が要請される事
  • さらに、そのリスクを消すための反対取引を行った場合、リスクの相殺が認めれる条件がかなり厳しい事

です。 

金利スワップでは、満期日や固定金利のレート、支払日などがまちまちの取引であっても、すべてイールドカーブ上の期間ごとの金利感応度を計算して、プラスとマイナスを相殺できます。また個別リスクは取引相手方からしか発生せず、かつ担保契約などで、それを大きく軽減する事が可能です。しかしCDS取引では、Reference Entityのクレジットリスクに対しても個別リスクが発生し、かつそのリスクを相殺するには、Reference ObligationやCredit Eventの定義などが、同じであり、かつ満期日や、その他の経済的な契約条項も一致しないと、殆ど認められません。 

CDS取引が始まった当初は、例えば市場でベンチマークとなる期間5年のCDS取引は、取引日から5年後が満期日になり、取引日がずれると満期日もずれてしまいます。すると、過去に取引したCDSの反対取引を行う場合、ベンチマークで取引すると、期間ミスマッチが発生し、相殺が認められない一方、満期日を合わせるためにベンチマークからはずれた期間の取引をしようとすると、流動性が落ちる為、不利な価格になる傾向がありました。そこで、取引日が近い取引については、すべて同じ満期日のCDSを取引するような取引慣行が生まれました。具体的には、満期日を3,6,9,12月の20日に固定し、例えば、1月から3月までの期間に取引した5年物のCDS取引は、すべて5年後の3月20日を満期にするというものです。すると、特定のReference EntityのCDSを、その期間内に行っていれば、すべて同じ満期日になるので、売りと買いのポジションが自己資本規制上も相殺可能になります。当然ながら、その他の法的な契約条項も同じでなければなりませんが。 

 CDS契約の標準化は、徐々に進み、今では概ね次のような契約形態になっています。 

  • 満期日を年2回(6月20と12月20日)に固定する。具体的には、例えば5年の CDS取引について、3月20日から9月19日までの取引日では、5年後の6月20日が満期日になる。また9月20日から3月19日までの取引日では、5年後から最も近い12月20日が満期日になる。
  • Premium Legの支払いは、年4回で、3.6.9.12月の20日
  • Premium Legのスプレッドは、25bp, 100bp, 500bp, 1000bp のいずれかに統一
  • その結果、当初契約時において、Premium LegとProtection Legの現在価値が必ずしも等価にならないので、等価になるよう、その差を手前の現金授受(up-front payment)で調整
  • Premium Legの支払い日に関するカレンダーの取り扱いも、ほぼ世界共通とする。すなわち、土、日曜日のみ休日とし、祝日を休日に含めない。支払日が休日の場合は翌営業日を支払い日とする。(“ほぼ”といているのは若干の例外がある為で、日本では祝日も休日に含めています。)
  • 満期日は休日であっても、20日に固定
  • 一般企業を対象とするCDSでの credit event の定義は、米国では bankruptcy(破産)と failure to pay(支払い債務不履行)の2種類、欧州ではそれに加え、restructuring(債務再編)を含めるのが一般的です。

等々です。他にも日数計算方法や、Credit Event発生日の決定方法、その際の経過利息の支払い義務など、かなり細部の条件まで標準化されています。 

契約の標準化を促す、もうひとつの動機は、リーマンショック後に導入された、デリバティブズ取引に関する新たな規制です。そこでは、デリバティブズ取引の透明性向上と、カウンターパーティーリスクの軽減策として、CCP(Central Clearing Party 中央決済機関)経由の取引の奨励や、SEF(Swap Execution Facility スワップ取引執行機関)を使った取引の義務付けなどのルールが出来ました。すると、CCPやSEFを使うには、ある程度スワップ契約が標準化されている必要があります。これらの規制も、CDS契約の標準化を促しました。 

以上が、クレジットデフォールトスワップ契約の基本的な契約形態の解説でした。次のセクションで、このCDSをどうやって価格評価するかについて解説します。 

 

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