上級編 6.  Libor Market Model 

6.2  古典的なLibor Market Model

6.2.4   ドリフト項の導出

まず、フォワード Libor とゼロクーポン債価格との関係式を示します。時点 t におけるフォワード Libor \(L_k (t)\) は、Libor のスタート日とエンド日を満期とするゼロクーポン債価格を使って、下記式のように表現できます。 

\[ L_k (t)=\frac{1}{τ_k} \frac{P(t,T_{k-1})-P(t,T_k )}{P(t,T_k)} \]

この式の右辺は、\(P(t,T_{k-1})\) のロングポジションと \(P(t,T_k)\) のショートポジションからなる取引戦略の、\(P(t,T_k)\) に対する相対価格になっています。すると、\(L_k(t)\) は \(P(t,T_k)\) をニュメレールとした同値マルチンゲール測度下でマルチンゲールになります。\(P(t,T_k)\) をニュメレールとした同値マルチンゲール測度を \(Q_k\) と表記すると、 その測度下では、ドリフトが 0 なので SDE は下記のように記述できるでしょう。 

\[ dL_k (t)=L_k (t)~σ_k (t)~{\bf c_k∙dw^{Q_k} } (t)~~~~~ k=1,2,…,n \tag{6.28} \]

この幾何ブラウン運動の SDE は、伊藤の公式を使って、\(L_k(t)\) の対数 \( \ln L_k(t)\) の SDE に変換でき、それは下記のようになります。 

\[ d \ln L_k(t)= - \frac{σ_k(t)^2}{2} dt + σ_k(t)~ {\bf c_k∙dw^{Q_k}} (t) ~~~~~ k=1,2,…,n \tag{6.29} \]

なぜこのような変数変換を行ったかと言うと、この式の拡散項係数を後で使うからです。 

さて、求めたいのは、各 \(L_K\) について、別のニュメレールをベースにした確率測度 \(Q_i~~~i≠k\) 下での確率過程におけるドリフト項です。それを、測度変換の公式を使って求めます。
 セクション 6.1.2.3.5 で説明した通り、確率変数が幾何ブラウン運動する場合の測度変換の公式は以下のような形をしていました。6.25'式が、市場全体のドリフト項ベクトルの式で、6.25''式は、それを個別の証券のドリフト項に分解した式になります。  

\[ {\bf m^{Q_N}(t) = m^{Q_M}(t) }+ \frac {d < {\bf \ln x(t),~\ln \left(\frac{N(t)}{M(t)}\right)^{\top} } >}{dt}~~~~~~~~~~~~~~~~~(6.25)' \] \[ m_x^{Q_N}(t) = m_x^{Q_M}(t) + \frac {d < \ln x(t),~\ln \frac{N(t)}{M(t)} > }{dt}~~~~~~~~~~~~~~~~~(6.25)'' \]

この公式に、6.27、6.28、6.29 式の SDE をあてはめていきます。 

  • まず確率変数を \(x(t)=L_k(t)\) とします。
  • 次に、2 種類のニュメレール(測度変換後と変換前)をそれぞれ \(N(t)=P(t,T_i),~~~~M(t)=P(t,T_k)\) とおきます。
  • それぞれのニュメレールに対応する確率測度を \(Q_i,~~~Q_k\) と表記します。
  • ドリフト項の表記 \(m_x^{Q_N}(t),~~~m_x^{Q_M}(t)\) は、それぞれ 27 式の表記に変えて、\(m_x^{Q_N}(t)=μ_k^{Q_i}(t),~~~~m_x^{Q_M}(t)=μ_k^{Q_k}(t)\) と置き換えます。

以上の式を 6.25'' 式に代入すると、下記式のようになります。 

\[ μ_k^{Q_i}(t)=μ_k^{Q_k}(t) + \frac{d < \ln x(t),~\ln \frac{P(t,T_i)}{P(t,T_k)} >}{dt} \]

ここで、\(L_k(t)\) は \(Q_k\) 測度下でマルチンゲールになるので右辺の \(μ_k^{Q_k}(t)=0\) です。すると 

\[ μ_k^{Q_i}(t) = \frac{d < \ln L_k(t),~\ln \frac{P(t,T_i)}{P(t,T_k)} >}{dt} \tag{6.30} \]

すなわち、\(L_k(t)~の~Q_i\) 測度下でのドリフト項は、\(L_k(t)\) の対数と、ニュメレールの相対価格の対数の(瞬間)交差変分から求まります。

さて、その交差変分は、それぞれの SDE の拡散項係数の積で求まる事が知られています。 \(\ln L_k(t)\) の拡散項係数は、6.29 式にある通りです。先ほどの変数変換によるSDEを求めたのはこの為です。一方、ニュメレールの相対価格の対数 \(\ln \frac{P(t,T_i)}{P(t,T_k)}\) の拡散項係数については、以下のようにして求めます。その場合、\(T_i < T_k\) の場合と、\(T_i> T_k\) の場合で、結果が異なるので、別々に導出します。そうすると、最終的に 6.30 式から \(μ_k^{Q_i}(t)\) が求まります。 

<  ニュメレールの満期が \(L_k\) の満期より前にくる場合 (\(T_i < T_k\) のケース )  >

選択したニュメレールの満期 \(T_i\) が、確率変数 \(L_k(t)\) のエンド日 \(T_k\) より、先に到来するケースです。この場合、\(L_k(t)\) の確率分布を、期日まで求めようとすると、\(T_i\) 以降、別のニュメレールを選択し直さないといけません。その場合の対応方法は、別途解説しますが、とりあえず、\(T_i\) 時までの \(L_k (t)\) のドリフト項を求めます。 

まず、6.30 式にある \(\ln \frac{P(t,T_i)}{P(t,T_k)}\) は、以下の通り、\( [T_i,T_k] \) 間のフォワード Libor で記述できます。 

\[ \begin{align} \ln \frac{P(t,T_i)}{P(t,T_k)} & = \ln \left( \frac{P(t,T_i)}{P(t,T_{i+1})} ∙ \frac{P(t,T_{i+1})}{P(t,T_{i+2})}∙ … ∙ \frac{P(t,T_{k-1})}{P(t,T_k)} \right) \\ & = \ln \left[(1+τ_{i+1} L_{i+1}(t))∙(1+τ_{i+2} L_{i+2}(t))∙…∙(1+τ_k L_i (t)) \right] \\ & = \ln \left[ \prod_{j=i+1}^k (1+τ_j L_j(t)\right]=\sum_{j=i+1}^k \ln⁡(1+τ_j L_j (t)) \tag{6.31} \end{align} \]

見ての通り、ニュメレールの相対価格の対数は、Libor の対数の級数で表現できます。ここから、先ほど求めたいと言っていた"ニュメレール相対価格の拡散項係数"は、LMM(6.27式)の拡散項係数から求まります。 その拡散項係数と、6.29式の拡散項係数を使えば、6.30 式の右辺にある、\(\ln L_k(t),~と~\ln \frac{P(t,T_i)}{P(t,T_k)}\) の(瞬間)交差変分が以下のようにして求まります。 

\[ \begin{align} μ_k^{Q_i}(t)=\frac{ d < \ln L_k (t),~\ln \frac{P(t,T_i)}{P(t,T_k)} > }{dt} & = \sum_{j=i+1}^k \frac{d< \ln L_k(t),~\ln (1+τ_j L_j (t)) >}{dt} \\ & = \sum_{j=i+1}^k \frac{τ_j}{(1+τ_j L_j (t))} \frac {d < \ln L_k (t),~L_j(t)> }{dt} \\ & = \sum_{j=i+1}^k \frac{τ_j~L_j(t)~ρ_{j,k}~σ_k(t)~σ_j (t)}{1+τ_j L_j (t)} \tag{6.32} \end{align} \]

注 : 右辺の 1 行目から 2 行目への変換は、対数の微分の公式から、\(d \ln (1+τ_j L_j (t)) = \frac{τ_j}{(1+τ_j L_j (t))} dL_j (t) \) という関係を使っています。
また 2 行目から 3 行目への変換は、2つの確率変数の(瞬間)交差変分は、それぞれの SDE の拡散係数の積になる所から導出しています。すなわち \[ \frac{d< \ln L_k (t),~L_j (t) >}{dt}=(σ_k (t)~{\bf c_k})^\top ∙( L_j (t)σ_j(t)~{\bf c_j})=L_j(t)ρ_{k,j} σ_k(t) σ_j(t) \]  

これで、測度変換後の\(Q_i\) 測度下での \(L_k(t)\) の確率過程で発生するドリフト、すなわち\(μ_k^{Q_i}(t)\) が求まりました。それをさらに 6.27 式に代入すれば \(L_k (t)\) の \(Q_i\) 測度下での SDE は、下記のような形になります。 

\[ dL_k(t)=L_k (t)\sum_{j=i+1}^k \frac{τ_j L_j(t)ρ_{j.k} σ_k(t)σ_j (t)}{(1+τ_j L_j (t) )} + L_k(t)σ_k (t)~{\bf c_k∙dw^{Q_i}}(t),~~~~i<k \tag{6.33} \]

注 : すでに述べた通り、拡散項の表現方法に注意して下さい。この解説の基になった、Brigo-Mercurioの本(2006年版 213p)では、相関のあるブラウン運動 \(\bf dz_k^{Q_i}(t)\) を使って SDE を記述しています。\(\bf c_k∙dw^{Q_i}(t)=dz_k^{Q_i}(t)\) なので、上の式も Brigo-Mercurio の SDE と同じ意味です。 

<  ニュメレールの満期が \(L_k\) の満期より後にくる場合 (\(T_i > T_k\) のケース )  >

今度は、ニュメレールの満期日 \(T_i~が、Lk\) のエンド日 \(T_k\) のさらに後に来る場合です。まず、ニュメレールの相対価格の対数は、フォワード Libor を使って、以下のように変換できます。 

\[ \begin{align} \ln \frac{P(t,T_i)}{P(t,T_k)} & = \ln \left( \frac{P(t,T_{k+1})}{P(t,T_k)} ∙ \frac{P(t,T_{k+2})}{P(t,T_{k+1})}∙…∙ \frac{P(t,T_i)}{P(t,T_{i-1})} \right)\\ & = \ln⁡\left(\frac{1}{1+τ_{k+1}~L_{k+1}(t)} ∙\frac{1}{1+τ_{k+2}L_{k+2}(t)}∙…∙\frac{1}{1+τ_i L_i(t)}\right) \\ & = \ln⁡\left( \frac{1}{\prod_{j=k+1}^i (1+τ_j L_j(t))}\right)=-\sum_{j=k+1}^i \ln (1+τ_j L_j(t)) \tag{6.34} \end{align} \]

これを使って 6.30 式の右辺を解析していくと、 

\[ \begin{align} μ_k^{Q_i}(t)= \frac{d< \ln L_k (t),~ \ln \frac{P(t,T_k)}{P(t,T_i)}>}{dt} & =-\sum_{j=k+1}^i \frac{d <\ln L_k(t),~\ln (1+τ_j L_j (t))>}{dt} \\ & =-\sum_{j=k+1}^i \frac{τ_j}{1+τ_j L_j(t)} \frac{d< \ln L_k(t),~L_j(t)>}{dt} \\ & =-\sum_{j=k+1}^i \frac{τ_j L_j(t)ρ_{j,k}~σ_k(t)σ_j(t)}{1+τ_j L_j (t)} \tag{6.35} \end{align} \]

以上から、\(L_k(t)\) の SDE は下記式のようになります。 

\[ dL_k(t)=-L_k (t)\sum_{j=k+1}^i \frac{τ_j L_j (t) ρ_{j,k} σ_k(t)σ_j (t)}{1+τ_j L_j (t)} + L_k(t)σ_k(t)~{\bf c_k∙dw^{Q_i}}(t),~~~~i > k \tag{6.36} \]

6.33 式と、6.36 式を比べると、ドリフト項のプラスマイナスの符号が逆転しています。\(T_i<T_k\) の場合、すなわち、ニュメレールの満期日が、フォワード Libor \(L_k(t)\) の期日より前に到来する場合、\(dL_k(t)\) のドリフトはプラス、すなわち \(L_k(t)\) は劣マルチンゲールになります。一方 \(T_i> T_k\) の場合、ドリフトはマイナスとなり、\(L_k(t)\) は優マルチンゲールになります。次に、なぜそうなるか、このドリフト項調整の経済的な意味を解説します。 

 

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