基礎編 3. スワップ 

3.4 サブプライムショックとリーマンショック

3.4.2 デリバティブズ市場の構造的問題

繰り返しますが、サブプライムショック自体は証券化商品という実物資産の問題でしたが、デリバティブズ取引によってリスクが増幅され、不透明な形で伝搬していった為、金融市場全般に渡る流動性危機を引き起こしました。これによりデリバティブズ市場が持つ、構造的な問題が顕在化し、それまで緩和の方向に進んでいた金融規制が、これをきっかけに、一気に規制強化の方向に向かいました。 

その構造的な問題と、その結果どのように規制が強化されていったかについて、簡単にまとめてみました。 

3.4.2.1 オフバランスシート取引によるリスクの増幅、巨大化

これは、デリバティブズの商品としての問題というより、高いインセンティブにつられて、それを過度に利用した投資銀行の行動規範あるいはリスク管理規範の問題と言えるでしょう。デリバティブズを使えば、レバレッジを掛けて、より大きなリスクの商品を創造できます。またオフバランスシート取引なので、バランスシートを膨らませずに巨額のリスク量を積み上げる事が可能です。これが、デリバティブズ市場が急拡大した最大の要因と考えていますが、クレジットデリバティブズは、まさにその典型かと思います。リスクを自由に想像できるという事自体は問題ではないでしょう。収益インセンティブにつられて、過度なリスクを取りに行った投資銀行の行動規範、リスク規範の問題で、後々、それが厳しく批判されました。 

サブプライムショックに関連して言えば、クレジットデフォールトスワップの取引拡大が、ショックを増幅したと思っています。

参照クレジットが複数あるクレジットデフォールトスワップ(インデックス型のクレジットデフォールトスワップ)については、デフォールト確率の相関(copula)を取り入れた価格モデルが90年代に登場し、2000年代に入り取引が活発化し、市場が急拡大しました。First To Default(FTD)や、Trancheに分けられたクレジットポートフォリオのメザニン部分の取引は、レバレッジを掛けてリスクを増大させ、高いリターンを目指す典型的な商品です。 

このスキームの対象クレジットにサブプライムローンの証券化商品が使われました。サブプライム証券という、ハイリスク・ハイリターンの商品にレバレッジをかける事により、さらにリスクの高い商品が創造されていきました。場合によっては、対象資産の残高の何倍ものクレジットデフォールトスワップが取引される事もあり、サブプライムローンのクレジットリスクが、増幅されて金融市場に供給されていきました。 

デリバティブズでは、リスクを取った者の相手方は、その逆のリスクを取るので、ネットのリスク量はゼロです。サブプライムショックの時、クレジットデリバティブズで損失が拡大しましたが、逆に利益を上げたトレーダーやヘッジファンドもいました。有名なのはJohn Paulsonのヘッジファンドで、サブプライムローンのクレジットデフォールトスワップから1兆円以上の利益を上げたと言われています。Goldman Sachsも同様に、サブプライムクレジットのショートポジションから巨額の収益を上げ、リーマンショックの年、他の金融機関が巨額の損失を計上するなか、過去最高益を計上していました。Goldmanは後に、自身が暴落すると考えていた商品を顧客へ販売したという事で、訴訟を受けました。サブプライムショックでは、現物の証券化商品で発生した損失に加え、クレジットデフォールトスワップで儲けた人の利益と同じだけの損失が、加わったことになります。 

Wikipedia等に欧米の投資銀行が、サブプライムショックで被った損失のリストが載っています。数千億から数兆円単位です。(Wikiの原データはBloombergのはずです。当時、Bloombergは定期的にこの集計数字を公表していました。) 

合計すると2008年8月の時点で、5000億ドル(約50兆円)を越えていました。その後、リーマンが破綻したので、金融システム全体で被った損失はもっと大きかったと推察されます。日本がバブル経済の崩壊により、金融システムで被った損失は、100兆円と言われており、それに匹敵する数字であったかと推察されます。 

3.4.2.2 取引相手方のリスクがトレーディング勘定に積みあがる

投資銀行のトレーディング勘定にある証券のポジションは、売却してしまえばリスクがブックから消えますが、デリバティブズ取引では、リスクを相殺する反対取引を行うだけで、ブックの両側に反対向きのリスクが存在し続けます。また、オフバランス取引のデリバティブズでは、各金融機関がどれ程のリスクを取っているのか、十分開示されていません。みなし元本額は開示されていますが、それはリスク量とは無縁の数字です。 

リスクが相殺された形でトレーディング勘定に残るので、取引相手方がデフォールトした場合、その反対側のポジションの市場リスクが、突如顕在化します。デフォールトした相手方との取引量が膨大であれば、カバーすべきリスクも巨額になる可能性があります。一応、ISDAの統一契約書では、そういった場合、カバー取引でかかったコストを、デフォールトした相手方に請求できますが、いくら回収できるか、また回収にどの程度時間がかかるのか、全く不透明です。 

一部の大手投資銀行では、取引相手方がデフォールトするリスクを勘案してデリバティブズの価格評価を行っていました(Credit Value Adjustment)。この場合、取引相手方がデフォールトを起こさなくとも、クレジットリスクが悪化するだけで評価損が発生する可能性があります。これらの銀行では、そういったリスクをクレジットデフォールトスワップでヘッジする場合もありますが、ヘッジせずにリスクを許容範囲と考えそのままにしておく場合もありました。ヘッジする場合でも、CVAのリスクは相手方のクレジットスプレッドだけでなく、デリバティブズの対象資産の市場リスクにも影響を受けるので、完璧なヘッジは不可能です。 

サブプライムショックからリーマンショックにかけて、リスクがサブプライム証券から、金融市場全般に広がりだすと、取引相手方のクレジット悪化により、デリバティブズの評価が急激に悪化しだしました。CVAをクレジットデフォールトスワップでヘッジしようにも、リスクを引き受けられる取引相手方も限られています。 

サブプライムショックからリーマンショックにかけて発生した金融危機で、デリバティブズの取引相手方から発生したロスは、デフォールトによる直接的な損失よりも、CVAの悪化による損失の方が大きかったと言われています。 

 

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