基礎編 1 キャッシュフローと金利 

1.3 リスクフリー金利 (Risk Free Rate)

リスクがゼロの商品に投資して得られる金利を、Risk Free Rateと呼んでいます。そして、先ほど述べたキャッシュフローを現在価値に割引く為に使われる金利も、Quants Financeの世界では原則Risk Free Rateを使います。   

先ほどの\(DiscountFactor(T_i) \)は、\(T_i\)時の金利Risk Free Rateに依存する事を明確にする為  

\[DiscountFactor(r_{riskfree}(T_i))\]

と書いてもいいかもしれません。  

何をもってRisk Free Rateとするかは、学術論文によって定義づけが曖昧で、厳密さに欠ける使われ方をしています。CAPMを中心とするポートフォリオ理論の中では、デフォールトリスク(倒産リスク)も価格変動リスクも無い短期の国債の利回りと考えられています。  

デリバティブズの価格計算で使われる割引率も、学術論文では一般的にRisk Free Rateを使うとされています。しかし、この場合、それを国債の利回りと考えるのは疑問です。  

デリバティブズの価格計算の根底にある、Fundamental Theory of Asset Pricingの枠組みでは、リスクのある商品であっても、そのリスクを完全にヘッジできる取引戦略が存在するのであれば、ヘッジされたポートフォリオのリターンはRisk Free Rateに収束するという考え方です。市場参加者がそのヘッジ取引戦略を取るには、市場で自由にその商品のロングとショートのポジションが構築できる事、かつその取引戦略構築に必要な“資金運用と資金調達もRisk Free Rateで自由にできる”という仮定が置かれています。しかし、一般的な市場参加者(機関投資家や、金融機関を想定しています)にとっての資金運用・調達金利は、短期国債の利回りとは異なります。特に、調達レートは、市場参加者のクレジットリスクが反映される為、国債の利回りと同じレートで調達できると考えるには無理があります。実際の運用・調達レートと異なる金利で現在価値に割引かれた金融商品の価格を、会計上バランスシートに計上するのは問題です。  

という事で、金融の実務では、デリバティブズの価格計算で使われるRisk Free Rateとして、市場参加者の実際の運用・調達コストに近い金利を使います。  

そして、その金利として、かつてはLIBOR(London Inter-Bank Offer Rate)金利を使うのが一般的でした。「…でした。」と過去形で表現しているのは、今ではLIBOR金利は、市場参加者が、市場で自由に取引できる運用・調達金利とは見做されていないからです。  

また、デリバティブズの取引相手方と担保の授受契約をしているかどうかによっても、運用・調達レートは変わってきます。さらに言えば、取引主体によっても運用・調達レートは変わってくるはずです。すると、学術論文などでは、Risk Free Rateは客観的に一意に決まるという前提ですが、実務では複数のレートを使い分けなければなりません。  

先ほどの\(DiscountFactor(r_{riskfree} (T_i))\) は、\(DiscountFactor(r_{fundingcostindex} (T_i))\) のように、複数の調達コストに対応できるように考えておくべきでしょう。この式の\(FundingcostIndex\)は、3か月LIBOR であったり、Overnight Rateであったりします。非常に面倒ですが、そうしないと、会計上正しい価値がバランスシートに反映されなくなります。金融工学における最も基本的な変数である金利“r”についても、実務的な対応なくして(会計上)正しい価格計算が出来ない事になります。  

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