基礎編 2. 金利の期間構造
2.6 イールドカーブの構築方法(2) Bootstrapping + Interpolation法
2.6.9 Market Convention (取引慣行)
イールドカーブの構築方法の説明の中で、何の説明も無しに、日数計算方法やカレンダーや休日の取扱い方法を勝手に与件として使ってきました。これらの条件は、Market Convention(取引慣行)と呼ばれていますが、キャッシュフローの金額と期日を正確に確定するために不可欠の情報です。
OTCデリバティブズ取引では、こういった条件を契約時にすべて明示的に取り決めます。それぞれの条件が具体的にどういう内容かは、ISDAのMaster Agreementの中のDefinitionの中で定義されています。しかし、元をただせば、Money Marketでの銀行間取引での取引慣行や、債券の発行要綱や証券業者の自主規制団体などのルールによって定義されているものです。それらは、国や地域によって異なり、世界中で様々なルールがあり、すべて正確に把握するのは、相当やっかいな作業です。
例えば、日数計算方法では、次の様なバリエーションがあります。
Actual/360、Actual/Actual、Actual/365、30/360(欧州方式)、30/360(米国方式)
他にも、微妙な差がある日数計算方法は、多数あります。
価格計算式の中で、各\(CF_i\)の金額と発生時期は、これらのMarket Conventionを正確に把握しないと、計算できません。まさに実務知識が必須のプロセスになります。これが、結構やっかいな作業で、実務の人間が、おそらく最初に突き当たる壁になります。私自身も、LIBOR金利の経過利息計算や、米国国債の経過利息の計算など、商品毎に異なる様々なルール、慣行を理解するのに苦労しました。
さらに、デリバティブズ業務に不可欠なITインフラにおいて、ポジション管理システムやリスク管理システムを構築するにあたって、この部分の確認作業は、非常に手間のかかる地道な作業です。世界の主要通貨の主要な金融商品だけでも、相当多岐に渡り、それぞれ異なったルールが存在しています。
後のChapter(現段階では実践編としようと考えています)で、価格モデルライブラリーであるQuantLibを紹介しようと考えています。そこでは、こういった取引慣行が、かなり広範にカバーされ、オブジェクトモデル化されています。こういったOpen Sourceを使えば、Market Conventionの詳細なルールの把握の作業は大幅に軽減されます。その場合でも、ルールの原典を把握しておくのは重要です。