基礎編 5. リスク量の計測

5.2 Sensitivities(感応度)の計測

5.2.4 市場リスクファクター以外のリスク

 セクション5.2.3.5の、さらにやっかいな非線形リスクで説明した、相関係数の変動から発生するリスクが、典型的な市場リスクファクター以外のリスクになります。すなわち、モデルが定数あるいはDeterministic Functionとして仮定しているパラメータが、実際には変動する事によって発生するリスクです。このようなパラメータには以下のようなものがあります。 

  • 中心回帰する確率過程における中心回帰強度
  • Local Volatilityモデルにおける拡散項にある確率変数の指数パラメータ
  • Stochastic VolatilityモデルにおけるVolatility(あるいはVariance)の確率過程の拡散項の係数や相関係数。
  • Libor Market Modelにおける瞬間Volatilityの期間構造を設定するパラメータ
  • マルチファクターモデルにおける相関係数、あるいは相関係数を設定するパラメータ 等々

Fundamental Theory of Asset Pricingの大前提では、パラメータが動いてリスクが発生するような事は、想定されていません。モデルの変数は、時間と確率変数のみで、それが変動する事によるデリバティブズの価格変化は、他の金融商品(基本的にはデリバティブズの対象資産)の組合せによる取引戦略(基本的にはデルタヘッジ戦略)で完全にReplicate(ヘッジ)できるというのが大前提です。 

現実には、そうなりません。上記にリストしたようなパラメータは、大半が市場データとCalibrationされて設定されますが、市場データが絶えず変化するので、それらのパラメータも、それに合わせて動くことになります。そういった場合でも、比較的狭い範囲で、少ししか動かないのであれば、トレーダー目線で言えば、何とか使えるモデルと言えるでしょう。 

仮にパラメータがCalibrationの都度、激しく変動するようなら、モデルに問題があり、そのモデルで計算された価格やSensitivitiesの信頼性に疑問符がつきます。デルタヘッジで、ヘッジできないリスクが無視できない程大きい場合、会計上でも、そのモデルを使った評価価格をそのままバランスシートに計上していいのか疑問です。 

 いずれにしても、市場リスクファクター以外のパラメータの変動から発生するリスクについては、基本的にヘッジ不可能です。トレーダーは、それを放置して、そのリスクを甘んじて受け入れるしかありません。トレーダーは、そのポジションを取る際、そういったリスクを勘案して価格を決めるべきでしょう。会計上も、そういったリスクによって発生する損失の可能性を、引当金を積むなどして対応しておくべきでしょう。 

 

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