基礎編 3. スワップ
3.4 サブプライムショックとリーマンショック
3.4.3 リーマンショック後の規制強化
サブプライムショックからリーマンショックへと大恐慌以来の金融危機に見舞われ、しかもショックの影響は世界中の経済や金融システムに及びました。それまで金融規制は自由化の方向でしたが、一気に規制強化の方へ方向転換されました。リーマンショックの直後、2008年11月に主要20か国の首脳会合(G20 Summit)が開催され、その後何度か会合を重ねる中で、国際的に協調して金融規制を強化していく方向で合意されました。
国際的に協調した金融規制は、それまでBCBS (Basel Committee of Banking Supervision)によって、リスクアセットをベースにした自己資本比率規制が中心でしたが、BISの枠組みでカバーされていない、新たな規制の枠組みが、FSBを中心として策定されました。それに従い、FSBは、サブプライムショック、リーマンショックで現れた構造的問題の内、投資銀行による高いインセンティブボーナスにドライブされた過度なリスクテークや、巨大金融機関への規制強化、さらに危機を加速させたデリバティブズ市場の改革について、提言を行ってきました。
特に、デリバティブズについては、2010年にG20 ピッツバーグサミットで新たな規制の枠組みを発表し、メンバー国で制度化する事に合意しました。規制は、いずれも上記のようなデリバティブズ市場が持つ、構造的な問題点への対応策です。その主なポイントは、
- 標準的なOTCデリバティブズは、取引所あるいは電子的な取引プラットフォームで取引する事を義務付け
- 標準的なOTCデリバティブズは、中央決済機関(CCP:Central Clearing Party)で決済
- CCPで決済されないOTCデリバティブズに対する、証拠金規制と、より高い資本比率規制
- OTCデリバティブズの取引報告義務(Trade Repository)
その後、FSB(Financial Stability Board)が2010年にImplementing OTC Derivatives Reformを発表し、G20の合意を具体化する為に各国の規制当局が行うべき提言をしています。この中で特に重要なのは、標準化されたデリバティブズ取引のCCP決済義務です。デリバティブズにより不透明な形でリスクが伝搬するのを防ぐための根本的な対応になります。また、BCBSは、CCP決済されないOTCデリバティブズについて、変動証拠金に加え当初証拠金も授受する制度の導入に合意しました。これも、不透明な形でのリスク伝搬を防ぐ為の規制になります。既に、両制度とも各国で実施され、デリバティブズ市場が持つ構造的なリスクは、相当軽減されたのではないかと思います。
サブプライムショック、リーマンショックによる金融危機の反省から、その他にもいくつか重要な規制が制定されました。主なものは、
- Basel-IIIによる、より厳しい自己資本比率規制の導入
- BCBSによる流動性比率規制の導入
- BCBSによるレバレッジ比率規制の導入
- BCBSによる証券化商品およびCorrelation Trading Bookのリスクアセット計算の厳格化
- FSBによるGSIB(Global Systemically Important Banks)に対するさらに厳しん自己資本比率規制(TLACルール)
- FSBによるG-SIBの破綻処理計画(Resolution Planning)の策定義務化
- BCBSによる、トレーディングブックの市場リスク計算方法の大幅な見直し(Fundamental Review of Trading Book)
- BCBSによる、カウンターパーティーリスク計算方法の大幅な見直し(SA-CCR)
- BCBSによるCVAリスクのリスクアセットへの計上
- FSBによる高額インセンティブ報酬への規制
- BCBSによるRisk Appetite Frameworkの制定
- 米国Dodd-Frank法によるProprietary Tradingの制限とヘッジファンド投資への制限(Volcker Rule)
これらはすべて、3.4.2.1から3.4.2.4までに説明したデリバティブズ市場が抱える構造的な問題のいずれかの対応策になっています。