基礎編 6. クレジットデリバティブズ
6.3 クレジットデフォールトスワップの価格計算方法
6.3.3 ISDA Standard Model
6.3.3.1 ISDA Standard Model とは
前のセクションで、CDS の価格計算式の中にある積分をどうやって求めるかという課題について触れました。そこで述べたように、被積分関数の中に、Bootstrapping-Interpolation を使って求めないといけない値が2種類(割引率と、デフォールト強度)あって、積分を解析的に求めるのは一見難しそうです。しかし、いくつかある Bootstrapping-Interpolation の方法の中から、比較的シンプルな方法を使えば、積分が解析的に求まります。その方法を使っている ISDA Standard Model を見てみましょう。
実務では、標準的なCDS契約について、ISDAが公表しているISDA Standard Modelを使って、価格評価をするのが一般的です。ISDA Standard Modelは、リスクフリー金利のイールドカーブと、デフォールト確率の分布を示すクレジットカーブの導出方法について、シンプルなBootstrapping-Interpolationのアルゴリズムを使う事で、CDSの価格計算式の中にある積分の計算を、シンプルな解析解で導出できるようにした方法です。ISDAがスポンサーになり、実際にはMarkit社がテクニカルドキュメントを発表し、価格計算用のプログラムコードを提供しています。その価格計算用のプログラムコード(C言語とExcell アドイン関数)は公開されており、誰でも使う事が出来ます。
ISDA Standard Model は、名前に Model とついていますが、オプションモデルのように、何等かの金融指標を確率変数とみなし、その将来の挙動を微分方程式でモデル化しているものではありません。端的に言えば、イールドカーブとクレジットカーブの構築方法、特にその中で使われている Bootstrapping-Interpolation の方法を、Model と呼んでいると言えます。下記に、ISDA Standard Model に関するURLを添付します。
では、このISDA Standard Modelについて、以下のパートに分けて説明していきます。それぞれCDS価格式に含まれている積分の被積分関数と、それを解析した解析解の求め方になっています。
- イールドカーブの構築方法(Discount Factor D(t)の求め方)
- クレジットカーブの構築方法(Default intensity λ(t)の求め方)
- Protection Leg(積分部分)の求め方
- Premium Legにおける経過利息支払い部分(積分部分)の求め方
(注:ISDA Standard Modelを使わずに、D(t)やλ(t)を求めた場合、CDS計算式注の積分計算は、数値積分を使って、近似的に求めるのが一般的です。その場合でも、積分区間をあまり細かく分割せず、かなり粗い区分で計算します(例えば3か月毎とか)。デフォールト確率の予想やLoss Given Default額の予想自体が非常に難しく、粗い推定値を使うので、数値積分の所だけ厳密に計算してもあまり意味が無いからです。)