基礎編 3. スワップ 

3.2 スワップ取引の誕生と成長

3.2.5 スペキュレーションのニーズ

しかし、上記のような経済的なメリットだけでは、ここまで拡大した理由にはならないでしょう。市場に、それほどたくさん調達コスト節約のニーズや、裁定のチャンスがあったとは思えません。また、アセットスワップが組めるような裁定機会は、次第に消えていくものです。 

特にデータを持ち合わせている訳ではないですが、これまでの業務経験の中で見てきたことをベースにすると、スワップ市場あるいはデリバティブズ市場がここまで拡大した最大の理由は、スペキュレーションにうってつけの商品であったからではないかと思います。 

「現在価値が等価のCash Flowなら、なんでも交換できる」という考え方により、様々な形のリスクを持つ金融商品を創造できました。スワップそのものが、Off Balance Sheet取引なので、レバレッジを最大限に利かせられる商品ですが、さらに様々な仕組みで、よりハイリスクの商品を創造できました。仲介業者となる金融機関は、そうやって創造された様々なリスク商品を、機関投資家や事業法人、あるいはリテールの顧客に販売していった他、Proprietary Trading Deskを通じて、自らもスペキュレーションのメインプレーヤーとなりました。さらに、90年代以降に急成長した、ヘッジファンドも、デリバティブズを使って、ファンド元本の数倍から数10倍のリスクを取っていました。ヘッジファンドの多くが、証券会社のProprietary Trading Deskの出身者によって設立されたのも頷けます。 

また、スワップでリスクを取った場合、反対売買で当初の取引きを消すのではなく、リスク相殺するような別のスワップ取引を行うのが一般的です(クレジットデリバティブズは別)。そうすると、トレーディング勘定には、リスクを取った取引とそれを相殺する取引が、どんどん積みあがっていきます。これも、というより、これがみなし元本ベースの残高が巨大化した最大の理由かと思います。 

スペキュレーションにうってつけと言える為には、もうひとつ重要な要素は、流動性です。リスクを取っても、ポジションが簡単にクローズできないとスペキュレーションには不向きです。スワップなどのデリバティブズは、大半がOTC取引だったので、そういった点では相当不利に見えます。先ほど述べたように、リスクを消す場合、株や債券であれば、現物証券を売却してしまえば、トレーディング勘定には何も残りません。しかし、スワップであれば、リスクテークとリスクオフの両側の取引が勘定に残ったままです。すると、取引相手方に対するクレジットリスクや、事務負担が長期間に渡り残り、しかも、それがどんどん積み上がります。また、取引毎に交わす契約書も、相当な事務負担になります。さらに、リスク管理や時価評価には、相当程度の知識を持ったスタッフと、ITインフラも不可欠で、管理コストは相当高くなります。 

これでは、どう見てもスペキュレーションにうってつけとは言えません。にも関わらず、スペキュレーションに使われる事によって、途方もない規模の市場へ拡大しました。 

その理由は、金融機関にとって、非常に儲かるビジネスであったからではないでしょうか。ゴールドラッシュの時、極寒のアラスカまで人が集まったように、大儲け出来そうなチャンスに対して、少々の障害はものともとせず、金融機関と投資家が群がったのではないでしょうか。 

ゴールドラッシュの時に、一番儲けた人は、大金脈を当てた人ではなく、鉱夫にシャベルやつるはしを売っていた人や、金の仲介業者であったと聞いた事があります。デリバティブズにおいても、スペキュレーションで一山あてようとした投資家はなく、仲介業者である金融機関が、一番儲けてきたのかもしれません。 

 

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