上級編 6. Libor Market Model
6.6 モンテカルロシミュレーション
6.6.1 はじめに
既に何度も述べたように、LMM を使ったデリバティブズの価格評価では、一部のプレーンなヨーロピアンオプション以外は、モンテカルロシミュレーション(Monte Carlo Simulation 以下“MCS”)を使わざるを得ません。古典的な最もシンプルな LMM であっても、ファクター数が非常に多い上に、ドリフト項や拡散項の関数形が複雑で、将来の Libor の同時確率分布を”解析的に”求める事が困難だからです。また、有限差分法を使った数値解の導出も、確率変数の数が3を超えると、コンピューターアルゴリズム中でのメモリーの使用量や計算時間が指数的に増加するので、実践的ではありません。MCS の考え方は、大数の法則と中心極限定理がベースになっており、その原理を理解するのは難しくありません。サイコロを振る試行を何回も繰り返していけば、1~6 の目が出る確率はそれぞれ 1/6 に収束し、出てくる目の平均は 3.5 に収束していきますが、それと同様の事を、コンピューターを使って金融商品の価格やインデックスで行うものです。
しかし、考え方はシンプルであっても、実際にそれを、コンピューターを使って実行していくには、「いかに計算時間を短縮できるか」という実践的な課題が立ちはだかります。計算時間を気にする事が無ければ、どんな複雑なモデルで、どんなエキゾチックなデリバティブズであっても、望む精度での価格評価は可能です。しかし、実務では、一個のデリバティブズの価格評価で 1 分以上かかるようでは非常に使い辛く、10 分以上かかるようでは使いものになりません。その課題を克服するには、数学や IT 工学のテクニックを駆使してシミュレーション方法を工夫する必要がありますが、そういったテクニックを理解するのは簡単ではありません。また、どういった MCS のテクニックを使うかは、個別商品の特性に大きく依存し、商品毎に具体的なアルゴリズムを考えていく必要があります。従って MCS のアルゴリズムを具体的に構築していくには、様々な複雑なデリバティブズの商品特性をよく分析し理解しておくことが不可欠です。
ここで、それらのテクニックを、様々な商品に渡って網羅的に解説するのは、私の手に負えません。金融工学に限ったモンテカルロシミュレーションの解説だけで一冊の本になるほどです(有名なのは Paul Glasserman の“Monte Carlo Methods in Financial Engineering”などです )。より詳しく理解されたい方は、そのような本や文献などを参考にして下さい。ここでは、デリバティブズの価格評価に MCS を使う場合における一般的な課題と、特に LMM を使ったエキゾチックデリバティブズの価格評価における課題について、概要的な解説に留めたいと思います。