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上級編 6.  Libor Market Model 

6.5   Calibration

6.5.2   LMMを使った、ヨーロピアンオプション価格の解析解の導出

6.5.2.1   Caplet 価格

古典的な LMM は、各フォワード金利が幾何ブラウン運動すると仮定している点でBlack モデルを包含しているので、Caplet 価格計算においても、Black の公式がそのまま使えます。Black の公式による Caplet 価格の解析解は、既に何度か説明しているので、それを参照して下さい。(上級編 セクション 3.2 及び  セクション 3.3 )但し、Black モデルは Volatility を一定と仮定しているのに対し、LMM の Volatility 関数(拡散項係数)は時間経過により変化すると仮定しているので、LMM の Volatility を、Black Volatility に換算する必要があります。その換算は、LMM の Volatility 関数をどう仮定するかによりますが、基本的には、拡散項係数の 2 乗(ベクトルなので内積、これは瞬間共分散に相当)を、時間軸に沿ってオプション行使日まで積分(離散的な関数であれば総和)すれば求まります。 拡散項係数の2乗の積分を、少しわかりやすく言い換えると、オプション行使日までの共分散の平均を求める操作になります。

その換算式は、すでにセクション 6.3.3 の 6.39 式で示していますが、下記に再記します。 

(BlackVolLi)2=1Ti1Ti10ϕi ψ(t,Ti) ci2dt

(注:右辺の拡散項係数の積分を、Ti1 で割っているのは、年率換算の為。被積分関数にあるϕi,  ψ(t,Ti)  はスカラ値の関数、ci は m 次元のベクトル。) 

この式の導出過程を簡単に説明しておきます。 

まず、Caplet の対象としいる、Ti1  Ti 期日のフォワード Libor を Li とします。6.38 式の古典的 LMM において、Li がマルチンゲールになるようなフォワード測度を選択すれば、ドリフト項が消え、Li の SDE は下記のように記述できます。 

dLi(t)=ϕi ψ(t,Ti) Li(t)  ci(t)dw(t)Qi

これは幾何ブラウン運動の式なので、伊藤の公式を使って、Li の対数の SDE に変換すると、 

dlnLi(t)=12ϕi ψ(t,Ti) ci(t)2+ϕi ψ(t,Ti) ci(t)dw(t)Qi

となります。この式は、現時点 t=0 の Libor Li(0) が与えられれば解けて、オプション行使時 Ti1 における lnLi(Ti1) は下記式で求まります。 

lnLi(Ti1)=lnLi(0)Ti1012ϕi ψ(t,Ti)  ci(t)2dt+Ti10ϕi ψ(t,Ti)  ci(t)dw(s)Qi

これは、Li  Ti1 時点で、 

平均が Ti1012ϕiψ(t,Ti)  ci(t)2dt、 

分散が Ti10ϕi ψ(t,Ti)  ci(t)2dt 

となる対数正規分布することを示しています。形は、Black モデルを解いた時と全く同じで、Black モデルの解と比較すると、6.39 式が導けます。さらに、この分散の平方根( =0 → Ti1 間の平均 Volatility)を Black の公式に代入すれば、Caplet 価格が求まります。その Caplet 価格が市場の Caplet 価格と一致するように、LMM の Volatility 関数のパラメータを調整するのが Calibration の手続きになります。 

 

6.5.2.2   LMM によるスワップション価格の解析(近似)解

6.5.2.2.1   Blackの公式によるスワップション価格の解析解

ヨーロピアンタイプのスワップション価格は、Black の公式を使った解析解があり、市場慣行は、それを使って価格評価するのが一般的でした。超低金利やマイナス金利が常態化した現在は、Displaced log-normal モデルや、Bachelier モデルが使われていると推察しますが、いずれも解析解が存在します。Blackの公式を使ったスワップション価格式は、フォワードスワップ金利が幾何ブラウン運動すると仮定したモデルから導出されます。その場合、Volatility は一定と仮定します。その導出過程と、価格式については、既に 上級編 セクション 3.4 “基本的な金利オプション:Swaption”で説明済なので、そちらをご覧下さい。  

<   寄り道 : Swap Market Model(Log-normal Forward-Swap Model) >

一方、LMM と同系統なモデルとして、Swap Market Model(Log-normal Forward-Swap Model とも呼ばれています)というモデルが提示されています。(Jamishidian、“Libor and Swap Market Models and Measures”、Brio-Mercurio ”Interest Rate Models”Section 6.7)このモデルは、フォワードスワップ金利を幾何ブラウン運動すると仮定する点でBlackモデルと同じですが、Volatilityを一定とせず、時間 t の関数と仮定したモデルで、かつマルチファクターモデルです。そのSDEは下記式のように記述されます。 

dS(t,)/S(t,)=drift(t)dt+σs(t)C(t)dw(t)Q

特に、そのスワップ金利に対応する Annuity をニュメレールとした同値マルチンゲール測度下では、上記のスワップ金利の確率変動はマルチンゲールとなります。するとドリフト項が消え、 

dS(t,)/S(t,)=σs(t)C(t)dw(t)Qannuity

と記述できます。 

このモデルによるヨーロピアン・スワップションの価格は、右辺の Volatility 関数 σs(t)C(t) を現時点からオプション行使時まで積分し、その値を Black の公式に代入すれば求まります。  

ただ、このモデルは、実務ではあまり使われていないようです。市場価格に内包されている Volatility の期間構造が、Caplet のそれよりも複雑で、Calibration が非常に難しいからだと推察します。 

 

6.5.2.2.2    LMM によるスワップション価格の解析(近似)解 : Rebonatoの公式 

では、このセクションの本来の目的である、LMM によるスワップション価格の解析解について解説したいと思います。(古典的な)LMM は、複数のフォワード Libor が幾何ブラウン運動し、一定期間後に、同時対数正規分布すると仮定するモデルです。スワップ金利も、フォワード Libor の関数として記述できるので、スワップ金利の確率分布も、フォワード Libor の確率分布から導出できそうに見えます。しかし、フォワード Libor が同時対数正規分布すると仮定した場合、そこから導出されるスワップ金利の確率分布は対数正規分布とはなりません。従って、LMM とスワップ金利のBlackモデルは、本来は不整合です。理由は、Rebonatoの公式の導出過程(上級編 6.3.4.2 “Rebonatoの公式”)で説明した通り、スワップ金利をフォワード Libor のシリーズで表現すると、スワップ金利は、複数のフォワード Libor の非線形な関数となるからです(線形であれば、スワップ金利も対数正規分布します)。(Section 6.3.4.2:6.42式) 

しかし、“Rebonatoの公式”のセクションでも説明した通り、スワップ金利は、若干の仮定を置くことで、Libor 金利の線形結合で近似する事ができます。6.43式を再記します。 

SwapRate(t,Ts,Te)=1FP(t,Ts,Te)ei=s+1τi FP(t,Ts,Ti)=ei=s+1ωi(t)Li(t)ωi(t)=τi FP(t,Ts,Ti)ej=s+1τj FP(t,Ts,Tj)        

但し、 

  • t : 現時点
  • SwapRate(t,Ts,Te)      t    Ts  Te  
  • Ti   :     i=s+1 , s+2 ,  , e で es1 はスワップで発生するキャッシュフローの数(変動と固定で同じと仮定)
  • P(t,T)   :   t    T 
  • FP(t,Ts,Ti)   :   Ti t   Ts 
  • τi   :     TiTi1

6.43 式の各 Li(t) の係数にあるウェイト関数 ωi(t) は、ゼロクーポン債のフォワード価格 FP(t,Ts,Tj),  j=s+1,,e に依存し、その価格はフォワード Libor のベクトルに依存するので、このままでは、単純な線形結合になりません。しかし、Rebonato は、このウェイト関数の分母と分子が、強い相関を持って動くので、その比はあまり大きく動かない事に着目し、t=0 時の値で近似できると考えました。すなわち、 

ωi(t)  ωi(0) =τi FP(0,Ts,Ti)ej=s+1τj FP(0,Ts,Tj)

と仮定しました。するとウェイトが固定されるので、スワップ金利はフォワード Libor の線形結合で近似され、幾何ブラウン運動に近い動きをすると見做せます。すなわち、Rebonato は、スワップ金利の SDE が LMM の SDE で近似できると考えました。式にすると、6.45式のようになります。(下記に再記) 

drift()dt+BlackVolswap S(t) dwQ ei=s+1ωi(0) (drift()dt+ϕi ψ(t,Ti) Li(t) ci(t)dwQ)

ここから、先ほど LMM の拡散項係数から Black Volatility を導出したように、両辺を 0  Ts まで積分する事によって、Swaption の Black Volatility と LMM の拡散項係数の関係式が導出できます。この式は、Rebonatoの公式と呼ばれています。 

(BlackVolswap)2  1Tsei,j=s+1ωi(0) ωj(0) Li(0) Lj(0)SwapRate(0,Ts,Te)2Ts0ρi,j(t)(ϕiψ(t,Ti))(ϕjψ(t,Tj))dt

この右辺で近似されたスワップ金利の Volatility を、Black の公式に代入すれば、解析的にスワップション価格の近似解が求まります。右辺の積分の被積分関数は、LMM のLi  Lj  拡散項係数の 2 乗(ベクトルなので内積ですが、その部分は ci(t)cj(t)=ρij としています )になっていますが、これは2つのLiborの共分散に相当します。これを、LMM の Swaption への Calibration の際に使います。 

この他にも、Swaption 価格を、LMM から解析的に求める方法がいくつか紹介されているようですが、Rebonato の公式と比べても、格段に優れているという訳でも無く、説明は省略します。 

 

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