基礎編 3. スワップ 

3.2 スワップ取引の誕生と成長

3.2.4 スワップ取引の経済的メリット(2)

スワップ取引を行う経済的な動機として、調達コストの軽減以外に、運用機会の創出という点も見逃せません。 

スワップ取引が登場した1980年代は、国際的に資本規制が緩和されつつあり、資本のクロスボーダー(国際間)の移動が活発化しました。80年代半ばに米国では、米国国債のクーポンにかかる源泉税を、特定の非居住者については非課税としました。同じ頃、日本でも資本規制が緩やかになり、生保等の機関投資家の外債投資が活発化しました。また、日本の銀行の海外進出も活発化し、やはり海外での資産の積み上げを積極化していました。 

そういった中で、アセットスワップ取引が活発化しました。アセットスワップは、その語感からすると、アセットそのものを交換する印象を受けますが、実際にはアセットのCash Flowを別のCash Flowに変換するスワップで、アセットの交換は伴いません。従って、当初はAsset Based Swap(アセットを基にしたスワップ)と呼ばれていましたが、次第にアセットスワップという呼び名が定着しました。(Liability Swapも当初はLiability Based Swapと呼ばれていました。パラレルローンはLiability Swapですが、それをベースにしたスワップ取引は、語感としてはLiability Based Swapと呼んだ方がいいように思います。ただ、実際にはAsset Swap、Liability Swapという呼び方が広まりました。) 

日本の銀行が証券投資をする場合、自分たちの資金調達のベースがLIBOR金利にリンクしていたので、運用資産のクーポンもLIBORにリンクする商品を選好します。しかし、市場で流通している債券は、大半が固定金利債であり、そのまま投資すれば金利リスクを負う事になります。そこで、固定金利債のクーポンを、金利スワップを使って変動金利Cash Flowに変換します。また、債券の市場価格は必ずしもPar(=額面の100%)ではないので、償還益や償還損が発生する可能性もあります。その部分もスワップ取引で平準化する事が可能です。 

固定金利債の投資家は、金利リスクを負うので、いつでも売却できるよう流動性の高い債券を選好します。従って、流動性が劣る場合には、得てして価格が割安に放置される事があります。そういった債券をアセットスワップにより、LIBORにリンクする変動金利のアセットに変換できれば、今度は変動金利ベースの投資家、すなわち銀行などの金融機関が興味を示します。銀行は、そういった資産をローンの代替商品として購入するので、基本的に満期まで保有する事を目的としており、流動性は特に気にしません。 

こういったアセットスワップのニーズも、スワップ取引が拡大していった要因のひとつに上げられます。背景にあるのは、市場間のanomalyの存在、すなわち裁定機会の存在でした。1980年代後半、株式市場がバブル経済で活況を謳歌しており、日本企業による海外市場でのワラント債発行が活発化しました。海外で発行されたワラント債は、ワラント部分と、残りの債券部分が別々に流通します。株式投資家層の興味は、株式コールオプションであるワラントにだけあり、ワラントが切り離された債券部分には興味がありません。その債券部分は、クーポンが低く(場合によっては0)流動性も劣る事から、一般の債券投資家にも不人気で、非常に割安に放置されていました。こういった債券をスワップと組合せ、きれいな変動金利Cash Flowの商品として、盛んに日本の金融機関に販売されていました。これなどが、市場のAnomalyからくる裁定機会の典型であり、スワップという商品が非常に役に立った例と言えます。 

 

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