基礎編  

1.6 内部収益率 (Internal Rate of Return)

ここで、金融工学の中ではあまり使われないものの、実務では非常に重要な“金利”の概念について説明します。 

金融商品は複数のキャッシュフローからなります。このすべてのキャッシュフローを、期間にかかわらず、ある一定の金利で現在価値に割引いて、その合計が現在の価格と一致した場合、その金利を内部収益率(Internal Rate of Return)と呼びます。  債券や投資信託やプロジェクトファイナンス融資などの利回りを計算する際、通常この内部収益率の概念が使われます。  

例えば、期間5年で、クーポンが1.2%で年1回支払われる債券に投資したとします。この債券の保有者は、1年後から4年後まで毎年1.2%のクーポンの受取と、5年後に5年目のクーポンと元本の合計101.2%の受取キャッシュフローが期待できます。この債券の現在の価格が額面の101%であったとします。投資の為に支払う現金のキャッシュフローをマイナス表示し、将来受け取るクーポンと償還元本のキャッシュフローをプラス表示すると、下記のようなキャッシュフロー表が出来ます。 

現在 -101.0
1年後 +1.2
2年後 +1.2
3年後 +1.2
4年後 +1.2
5年後 +101.2

この表の、1~5年後のキャッシュフローを、一定の金利rで割引いて現在価値を計算し、その合計が債券価格に一致すれば、そのrが内部収益率になります。その関係は下記の方程式で表現できます。 

\[ 101=\sum_{i=1}^{5}\frac{1.2}{(1+r)^i}+\frac{100}{(1+r)^5}\]

この方程式は、解析的に解けないので、rを求めるには、コンピューターのSolverの力を借りて、数値的に求める必要があります。もしPC上でExcelが使えるのであれば、その組込み関数である@IRR( )を使っても簡単に求まります。この例でExcelの@IRRを使ったところ、0.9940% p.a.になりました。これが、この債券キャッシュフローの内部収益率になります。債券の場合は特に、最終利回りと呼んでいます。利回り表示の後にp.a.と付けているのは。年1回複利のベースで計算された利回りであるという意味です。 

これとは逆に、利回りから、債券価格を求めるのは、簡単に計算できるので、検算してみましょう。上の式のrに0.9940%を代入して5年分のクーポンキャッシュフローと償還元本の現在価値を計算します。すると 

\[ \frac{1.2}{(1+0.994\%)^1}+\frac{1.2}{(1+0.994\%)^2}+\frac{1.2}{(1+0.994\%)^3}+ \frac{1.2}{(1+0.994\%)^4}+\frac{1.2}{(1+0.994\%)^5}+\frac{100}{(1+0.994\%)^5}=101.0 \]

となり、現在の価格に一致しました。 

仮に、債券のクーポンが年2回払いで、他の条件は同じだとすると、どうなるでしょうか? 一応、Excelで年1回と年2回のキャッシュフローを作り、@IRRを使って計算した結果を、下記の表で示します。 

現在    -101.0 -101.0
0.5   +0.6
1年後       +1.2 +0.6
1.5   +0.6
2年後       +1.2 +0.6
2.5   +0.6
3年後       +1.2 +0.6
3.5   +0.6
4年後       +1.2 +0.6
4.5   +0.6
5年後    +101.2 +100.6
     
利回り 0.9940%p.a. 0.9945%s.a.

(Excelの@IRR関数は、Cellに含まれるキャッシュフローは等間隔に発生するとの前提で計算されます。年2回払いの場合、キャッシュフロー間隔は6カ月なので、計算結果は年率ではなく、半年分の利率に相当します。上記の計算では、それを2倍して年率換算しています) 

年2回払いの債券の場合、内部収益率、すなわち最終利回りは0.9945% s.a.となりました。年1回払いの利回りと比較するために、0.9945% s.a.をp.a.に換算すると、 

\[ \bigg(1+\frac{0.009945}{2}\bigg)^2-1=0.997\%>0.994\% \]

となります。同じ価格でも、年2回払いだとクーポンの半分が半年早く受け取れるので、その分イールドが高くなるという事です。受取るCashFlowの総額が同じでも、受取る時期ができるだけ現在に近い方が、価値が高いという事です。 

では、クーポンが年1回払いの債券の最終利回り(内部収益率)を、瞬間短期金利で表現したら、いくらになるでしょうか? この場合は、下記方程式を満たすrを探します。 

\[ 101=\sum_{i=1}^{5}\frac{1.2}{e^{ri}}+\frac{100}{e^{r\times5}}=\sum_{i=1}^{5}1.2\times e^{-ri}+100\times e^{-r\times5} \]

Excelの@IRR関数はもはや使えないので、SolverあるいはGoal Seekの機能を使って求めます。そうすると0.9891%になりました。すなわち0.9891%c.c.は0.9940%p.a.とほぼ同じYieldを生み出します。 

内部収益率の概念は、投資信託の運用利回り(パフォーマンス)計算のように、計算期間の途中で元本の出入りがあるような商品の利回り計算にも向いています。次の例では、途中で元本の追加や引き出しがあった場合の投資信託の内部収益率を、Excelの@IRRの機能を使って計算してみました。

現在 投資開始 -100
0.5 配当   2.1
1年後 配当   1.3
1.5 追加投資  -20
2年後 配当   2.5
2.5 追加投資  -10.0
3年後 配当   3.1
3.5 投資一部回収  45.0
4年後 配当   1.3
4.5 配当   5.1
5年後 投資全額回収  91.0
  トータルリターン 3.933%s.a.

キャッシュフローを見ただけでは、一見してリターンが何%になったか判りにくいですが、この投資信託への投資リターンは、内部収益率を使って計算すると3.933% s.a.でした。 内部収益率は、このように複雑なキャッシュフローの金融商品の利回り(Yield)を、ひとつの値で表現でき、他の商品とのリターンの優劣を比較するには、非常に便利な概念です。 
 一方で、内部収益率は、キャッシュフロー期間すべてについて、金利が同じであるという前提で計算されているので金利の期間構造(Term Structure)を勘案していません。実際の金利は、キャッシュフローの期間によって異なるので、同じ金利で再投資できるという仮定は、実際は実現不能です。

次のChapterで、この金利の期間構造について説明します。 

 

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