上級編 4. Short Rate Models

4.4   Hull-White モデル

4.4.1  モデルの特定 (続き)

<  Appendix: HJMフレームワークによる \(r(t)\) の確率過程が非マルコフになることについて  >

HJM フレームワークから導出される瞬間短期金利 \(dr(t)\) の確率過程は、経路依存し、従ってマルコフ性を持ちません。しかし、瞬間フォワード金利の Volatility 関数に、制約をかけると、マルコフ性を持つ Short Rate Model を導出する事ができます。 

この事は、HJM の論文("Bond Pricing and Term Structure of Interest Rates")を始め、様々な文献で指摘されています。しかし、私自信は、HJMモデルから導出された \(r(t)=f(t、t)\) の 4.9 式や Volatility 関数の式をいくら眺めても、なぜそうなるのか、なかなか理解できませんでした。しかし、次の様に考えると、何となく理解できた気になりました。 

<  なぜマルコフ過程にならないか >

HJMフレームワークから導出された、瞬間短期金利や、それを積分して求めたゼロクーポン債価格がマルコフ過程にならない理由は、次の様に理解できるのではないかと思います。 

  • HJM フレームワークでの瞬間短期金利 r(t) は、t 時におけるイールドカーブの一番手前の瞬間フォワード金利 \(f(t,t)\) を示している。従って、そこから導出される r(t) の確率過程とは、無限個の瞬間フォワード金利を、イールドカーブの一番手前から順番に追っかけている事になる。
  • 従って、\(r(t)=f(t,t)\) と、その一瞬後の \(r(t+δ)=f(t+δ,t+δ)\) は、HJM フレームワークでは、異なる確率変数であり、\(f(t,t)~ の情報から、直ちに~f(t+δ,t+δ)\) が推定(期待値や分散を計算)できる訳ではない。
  • その値を知るには、時点 0 から t+δ まで \(f(∙,t+δ)\) を積分する必要がある。それを、Non-Markov性と言っているのだと理解。

< HJMフレームワークで、カーブ全体が滑らかな形状を維持したまま確率変動させる為の条件  >

\(r(t)=f(t,t)\) と、その一瞬後の \(r(t+δ)=f(t+δ,t+δ)\) が別の確率変数であっても、カーブが滑らかであれば、その差の極限を取って \(dr(t)\) が定義できそうに思えます。

では、瞬間フォワード金利のカーブが、滑らかな形状を維持したまま確率変動するようにするには、どうすればいいのでしょうか? これについては、以下のように考えられます。 

  • HJMフレームワークでは、瞬間フォワード金利は無限個存在するが、それを変動させる原動力となるブラウン運動は、有限個と仮定している。であれば、各瞬間フォワード金利は、お互いに完全に独立している訳ではないので、滑らかな形状を維持したままカーブ全体の確率的挙動を表現できそう。
  • しかし、無限個の瞬間フォワード金利を動かすブラウン運動の数を有限個とする事だけでは、イールドカーブの動きを、滑らかな曲線を維持したまま変動させる事は出来ない。そうなる為には、各瞬間フォワード金利の Volatility 関数に、強い制約をかける必要がある。
  • 例えば、1個のブラウン運動が、すべての瞬間フォワード金利を動かす原動力になると仮定するとどうなるか? すると、すべての瞬間フォワード金利が相関1で同一方向に動くので、イールドカーブが滑らかな形状を維持したまま動くように思える。しかし、それだけでは、やはりイールドカーブはギザギザになる。仮に、ある T 点の瞬間フォワード金利の Volatility が 0.2 で、その隣の(数学的にあいまいな表現ですみません)瞬間フォワード金利の Volatility が 0.1 だと、瞬間フォワード金利は変動直後に非連続になる。相関が1なので、同じ方向(上がるか下がるかしか無い)に動くが、動く幅に不連続なギャップが出来るから。
  • それを、滑らかな形状を維持したまま動くようにするには、Volatility 関数が、T に対して滑らかな関数である必要がある。

< すべての瞬間フォワード金利を動かす原動力となるブラウン運動が 1 個で、かつ Volatility 関数が T に対して滑らかな関数の場合  >

仮に、すべての瞬間フォワード金利が 1 個のブラウン運動に支配され、かつ Volatility 関数がすべて 同じ定数 になると仮定します(Volatility 関数は、T に対して直線になり、滑らかな関数と見做せます)。すると、イールドカーブ上の瞬間フォワード金利は、すべて同じ方向に相関 1 で、かつ同じ幅だけ動きます。すると、イールドカーブ全体がスムーズな形状を維持したまま、上下に平行移動するような確率過程が記述できます。 

Ho-Lee モデル(Ho-Lee“Term Structure movements and pricing interest rate contingent claim”)が、まさにこれに該当します。 

別の例として、Volatility 関数を \( σ_f (t,T)=σ e^{-a(T-t)},~~a>0\) と仮定します。すると、瞬間フォワード金利の Volatility はカーブの一番手前の点( T=t の点)では、σ になります。そこから T が大きくなるにつれ、\(e^{-a(T-t)}\) が減衰ファクターとなり、滑らかに 0 に近づいていきます。すると、1 個のブラウン運動の動きに合わせ、カーブ上の瞬間フォワード金利は、相関 1 で動きますが、滑らかな形状を維持したまま、カーブの手前で一番激しく、T が大きくなるにつれ、緩やかに変動します。 

ブラウン運動の数を複数にしたマルチファクターであっても、それぞれの拡散係数となる Volatility 関数が T に対して滑らかであれば、やはり瞬間フォワード金利のカーブも滑らかな形状を維持したまま確率変動します。 

このように、瞬間フォワード金利が、スムーズな形状を維持したまま変動してくれるのであれば、\(r(t)=f(t,t)\) の値(情報)から、δ 時後における隣の確率変数\(r(t+δ)=f(t+δ,t+δ)\) の値が推定できそうです。カーブがスムーズなので、隣の確率変数の値を、自らの値から推定できそうです。そうするとカーブ上の隣の瞬間フォワード金利は、別の確率変数であっても、dr(t) が定義できそうです。 

< 私なりの dr(t) の解釈  >

そこで、瞬間フォワード金利の Volatility 関数 \(σ_f (t,T)\) を、本文で示したように、観測時点 t にのみ依存する関数 g(t) と、カーブ上の T 時点にのみ依存する関数 h(T) に分離します。一部の文献では、いずれもDeterministicな関数としていますが、私見では h(T) のみがそうで、g(t) は事象 ω に依存しても問題ないのではないかと思います(Andersen-Piterbarg の “Interest Rate Modeling”では、g(t) に Local Volatility や Stochastic Volatility の性質を取り込み、事象 ω に依存するようなモデルを提示している)。但し、h(T) は、T に対して連続で微分可能である必要があります。また、g(t) は、すべての瞬間フォワード金利で共通である必要があります。なぜそうなのかは、次に説明します。 

\(dr(t)\) ですが、本文では、\(df(・,t)\) を 0 から t まで積分して求めた \(f(t,t)=r(t)\) の式を、t で微分して導出しました。 しかし、\(r(t)~は~f(t、t)\) の最後の瞬間の値で、その一瞬後には消滅しているので、\(dr(t)\) が定義できないのではないかと述べました。 しかし、\(f(t,t)~と~f(t+δ,t+δ)\) の差として定義できそうな気もします。  

\[ dr(t)=\lim_{δ→0}⁡\frac{f(t+δ,t+δ)-f(t,t)}{δ} \]

ここで、分子にある \(f(t,t)~と~f(t+δ,t+δ)\) は、表記から同じ関数の一瞬後の値のように見えますが、HJM フレークワークでは別の確率変数になり、それぞれ別の積分経路を辿ってきた到達点になります。しかし、両方とも、同じ(有限個の)ブラウン運動に支配され、かつ Volatility 関数は、\(g(t)h(t)~と~g(t)h(t+δ)\) であり、h() のみが異なるだけです。かつ、その h() も連続なので h(t) から h(t+δ) は、dh(t)/dt が判れば導出できます。すると、上のように定義した dr(t) は、4.15式を使って、次の様に計算できそうです。 

\[ dr(t) =\lim_{δ→0} \frac{1}{δ} \left[ f(0,t)+h(t+δ) ∫_0^{t+δ} g(u)^2∫_u^{t+δ} h(s)ds~du+h(t+δ) ∫_0^{t+δ} g(u)dW(u)\\ -f(0,t)-h(t)∫_0^t g(u)^2∫_u^t h(s)ds~du -h(t)∫_0^t g(u)dW(u)\right]\\ =\lim_{δ→0} \frac{1}{δ} \left[ h(t+δ)∫_0^{t+δ} g(u)^2 ∫_u^{t+δ} h(s)ds~du +h(t+δ)∫_0^{t+δ} g(u)dW(u) \\ -h(t)∫_0^t g(u)^2 ∫_u^t h(s)ds~du -h(t)∫_0^t g(u)dW(u) \right] \\ =\lim_{δ→0} \frac{1}{δ} \left[(h(t+δ)-h(t)) d\left(∫_0^t g(u)^2 ∫_u^t h(s)ds~du+∫_0^t g(u)dW(u)\right)\right] \]

2行目の積分の項は、積分範囲を少しずらした項同士の差になっています。それを、3行目で、積分の微小変化としてまとめています。即ち \(∫_0^t g(u)^2 ∫_u^t h(s)ds~du\) の積分の増分と、\(∫_0^t g(u)dW(u)\) の積分の増分は、\(f(t)~と~f(t+δ)\) に共通の関数なので、その積分の微小変化に直しています。後は、h()の差 \( h(t+δ)-h(t)\)ですが、瞬間フォワード金利ごとに異なる値を取るものの、t に対して連続で微分可能なら、これもdh(t)で置き換えられます。 

結局 2つの確率変数の差ではあるものの、あたかも 1つの確率変数の微小変化のように記述できました。この後の変換は、本文中で dr(t) を導出したのと同じプロセスになり、結果も同じになります。 

さらに、g(t) と h(T) を Hull-Whiteモデルにおける中心回帰強度 \(a(t)\) を使って、 

\[ \begin{align} & g(t)=σ_r (t) e^{∫_0^t a(u)du} \\ & h(T)= e^{-∫_0^T a(u)du} \\ & σ_f (t,T)=g(t)×h(T)=σ_r (t) e^{-∫_t^T a(u)du} \\ \end{align} \]

と置けば、dr(t) を求めた結果、ドリフト項にある \(r(t)dt\) の係数が \(h'(t)/h(t)=a(t)\) となり、うまく中心回帰強度が Hull-White モデルのそれと一致しました。そうなる様に、\(\sigma_f(t,T)\) を定義したからなのですが。 

 

 

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