基礎編 3. スワップ
3.5 金利スワップの時価評価
これまでは、スワップ取引の生い立ちと市場拡大の様子、その後の規制強化の話だったので、少し金融工学的な話題に戻ります。金利スワップの時価評価についてです。イールドカーブの構築と金利スワップの価格評価は、金融工学の基本中の基本です。
3.5.1 LIBOR-Swap Curve(Forecasting Curve) と Discounting Curveと時価評価
将来のキャッシュフローが確定的な商品(Fixed Income)の価格式は、下記のようなものでした。(キャッシュフローの発生確率=1としています)
\[ 金融商品の価格=\sum CashFlow_i(T_i)\times DiscountFactor(r(Ti)) \]金利スワップは、現在価値が等価なキャッシュフロー同士の交換になるので、取組当初の価格は0になると見做せます。例えば、固定金利(Fixed Rate)受取り、変動金利(Floating Rate)支払いの金利スワップを価格式で書くと次の様になります。 LIBOR金利については、将来無くなる可能性がありますが、現時点ではあるものとして話を進めます。
\[ PV of Interest Rate Swap =\sum FixedRateCF_i(T_i)\times DF(r(T_i))-\sum FloatingRateCF_j(T_j)\times DF(r(T_j))=0 \]ここで、各キャッシュフローの額は契約で決まります。Fixed Rate Cash Flowは当事者同士で合意した、その時点のレートです。契約時に、年間支払い回数、日数計算方法、カレンダー、休日の取扱いなどの条件を決め、それにより具体的な額が定まります。
Floating Rate Cash Flowについては、取組時には確定していませんが、その時点のLIBOR-Swapカーブから、Forward Libor金利を導出できるので、それを使ってキャッシュフロー額を推定でき、上記の式ではそれを使います。契約で変動金利インデックスに6か月LIBORを使うと決めていれば、6カ月LIBORをベースにしたイールドカーブを構築し、そこから各キャッシュフロー日のForward LIBORを導出します。そして、合意した日数計算方法、カレンダー、休日の取扱いなどから、具体的なキャッシュフロー金額を確定します。
従って、上の式をより実務に近い式に書き直すと、次の様になります
\[ +\sum_{i=1}^{m} K\times \tau_{i}^{Fix} \times DiscountFactor(r(T_{i}^{Fix})) \hspace{32mm} \\ -\sum_{j=1}^{n} L_j(T_{j-1}^{Float},T_{j}^{Float}) \times \tau_{j}^{Float} \times DiscountFactor(r(T_{j}^{Float})) =0 \]但し
- みなし元本: 1
- 金利スワップの固定金利市場実勢レート: K
- 金利スワップのスタート日: \(T_0\))
- 固定金利キャッシュフローの支払い回数: m
- 固定金利キャッシュフローの支払い日: \(T_1^{Fix} < T_2^{Fix} < ,…, < T_{m-1}^{Fix} < T_m^{Fix} \)
- i 番目の固定金利キャッシュフローの対応期間: \(τ_i^{Fix}=T_i^{Fix}-T_{i-1}^{Fix} \)
- 変動金利キャッシュフローの支払い回数: n
- 変動金利キャッシュフローの支払い日: \(T_1^{Float}< T_2^{Float}< ,…, < T_{n-1}^{Float} \lt T_n^{Float} \)
- j 番目の固定金利キャッシュフローの対応期間: \(τ_j^{Float}=T_j^{Float}-T_{j-1}^{Float} \)
- j 番目の変動金利: \(L_j (T_{j-1}^{Float},T_j^{Float}) \)
一方 \(DiscountFactor(r(T_i ))\) を決めるリスクフリー金利は、担保交換契約がある場合、OISカーブを使うのが主流になってきており(イールドカーブのChapterのLIBORの分断化参照)、3か月や6カ月LIBORをベースにしたイールドカーブとは異なるカーブを使ってDiscount Factorを求めます。
このように、将来の変動金利(Forward LIBOR)を予想する為に使われるイールドカーブをForecasting Curve(またはForwarding Curve) と呼び、現在価値に割引く為のDiscount Factorを導出するカーブをDiscounting Curveと呼びます。Forward Curve、Discount Curveとは意味が異なります。
<Convexity Adjustment>
Fixed Incomeのキャッシュフローの現在価値は、金利が上昇すると低下し、金利が低下すると上昇しますが、その形状は直線ではなく、ゆるやかなカーブを描いています。その曲率をConvexityと呼んでいます。Forecasting CurveとDiscounting Curveが異なる場合、変動金利キャッシュフローが持つConvexityは、両者が同じ場合とは微妙に異なります。その差を調整すべきか(Convexity Adjustmentすべきか)どうかという議論がありますが、今のような低金利環境で、OISスプレッドも二桁の範囲であれば、差は軽微であり無視しても構わないでしょう。
<金利スワップ取引後の時価評価>
既に取引されて、トレーディング勘定にある金利スワップの時価評価も、上の式がそのまま使えます。この時、固定金利は、先ほどの市場実勢レートではなく、すでに約定したレートになります。仮にそれを C と置きます。また、変動金利については、直近の変動金利はFixing が済んでいるとして、そのレートを\(L_{fixed}\) とします。また、固定金利キャッシュフローはk 番目からスタートし、変動金利キャッシュフローは l 番目からスタートするとします。そして、現時点から次のクーポン日までの期間は、それぞれ \(\tau_k^{Fix}=T_k^{Fix}-t,\ τ_l^{Float} =T_l^{Float}-t\) とします。 すると
\[ +\sum_{i=k}^{m} C\times \tau_{i}^{Fix} \times DiscountFactor(r(T_{i}^{Fix})) \hspace{62mm} \\ -L_{fixed} \times \tau_{l}^{Float} \times DiscountFactor(r(T_{l}^{Float})) \hspace{57mm} \\ -\sum_{j=l+1}^{n} L_j(T_{j-1}^{Float},T_{j}^{Float}) \times \tau_{j}^{Float} \times DiscountFactor(r(T_{j}^{Float})) =金利スワップの時価 \]当然ながら、\(L_{fixed}\) 以外の未確定の変動金利は、現時点(t 時)のForecasting Curveを使って推定し、Discount Factorは、現時点のDiscounting Curveを使って計算します。固定金利が、今の市場実勢レートと同じであれば、右辺の時価は、ゼロに近くなりますが、次のクーポン日までの固定金利Cと変動金利\(L_{fixed}\) が(これらをFirst Short Couponsと呼びます)、Discounting Curveから導出されるZero Coupon Rateとずれる事から、若干のプラスマイナスが発生します。