上級編 4.  Short Rate Models (後編) 

4.6  対数正規 Short Rate Model

4.6.2  モデル

Dothan モデルは、既に述べたように、デリバティブズの価格評価には使えないので、あえて説明は行いません。デリバティブズの価格評価に適した、Arbitrage Free の条件を満たす Black-Derman-Toy モデルから説明をスタートしたいと思います。 

4.6.2.1   Black-Derman-Toy モデル

Black-Derman-Toy モデルは、もともと瞬間短期金利の確率過程を、離散時間での Tree 構造で表現するモデルとして提示されました。このモデルを連続時間での表現に変えると、下記のような式になります。(注:確率微分方程式ではなく、\(r(t)\) を t 時のブラウン運動の値 \(W(t)\) に依存する汎関数として表現されています。) 

\[ r(t) = U(t) e^{σ_r (t)W(t)} \tag{6.1} \]

但し、 \(U(t),~σ_r (t)\) は時間に依存する Deterministic な関数で、\(W(t)\) はリスク中立測度下でのブラウン運動を表します。この式から、t 時における \(r(t)\) の確率分布が求まります。\(W(t)\) が正規分布する事から、その指数関数となっている \(r(t)\) は対数正規分布します。 

 この式を、一般的な確率過程の式(確率微分方程式の形)に変換すると下記のようになります。 

\[ d \ln r(t) = \left( θ(t) + \frac {σ'_r(t)}{σ(t)} \ln r(t) \right) dt+σ_r (t)dW(t) \tag{6.2} \]

ただし、 \( θ(t) = \frac {U'(t)}{U(t)} - \ln (U(t)) \frac{σ'_r(t)}{σ(t)} \) 

この式が意味する所は、瞬間短期金利の対数 \( \ln r(t)~ が~ -\frac{σ'_r(t)}{σ(t)}\) の強度で、\(-θ(t)/\frac{σ'_r(t)}{σ(t)}\) のレベルに中心回帰する拡散過程を取るという事です。中心回帰レベルは、Hull-White モデルの様に、解析的には求まらず、当初イールドカーブにフィットするように、数値的に求めます。 

このモデルの中心回帰強度 \(-\frac{σ'_r(t)}{σ(t)}\) は、Volatility関数 \(σ(t)\) とその t での1階微分 \(σ'(t)\) から導出されるので、\(σ(t)\) を決めてしまえば自動的に決まってしまいます。すなわち中心回帰強度だけを個別に、市場データに Calibration して設定できません。中心回帰強度は、Intertemporal Correlation(一般的な日本語訳が見つからなかったので、とりあえず”時系列相関”と訳します。Auto-correlation:自己相関とは、意味が違います。)をコントロールできますが、このモデルではその表現力に制約がかかります。また、仮に\(σ(t)\) が t に対して増加関数だったとすると(実際に、短期から中期ゾーンでそのような傾向が観測されます)、その1階微分は正になるので、中心回帰強度自体は負になってしまいます。するとそのゾーンでは、\(\ln r(t)\) の拡散過程は中心回帰せず、逆に中心から離れる力がかかることになります。実際に観測される \(σ(t)\) は、中期ゾーンより長い期間では逓減傾向になり、金利は最終的には中心回帰に向かうので、それ程大きな問題にはなりません。 

それ以外にも、このモデルは、連続時間での対数正規モデルに共通する数学的な問題があります。すなわち、r(t) の積分の期待値が発散してしまうというものです。これについては、後ほど説明します。また、対数正規モデル一般的に言える事ですが、ゼロクーポン債価格式やオプション価格式の解析解は求まりません。従って、何等かの数値的な近似解を求めるテクニックを使う必要があります。それについても、後ほど簡単に解説します。 

いずれにしても、対数正規モデルは、次に説明する Black-Karasinski モデルが主流となったので、その説明に移ります。 

4.6.2.2  Black-Karasinski モデル 

Black-Karasinski は、Black-Derman-Toy モデルの中心回帰強度をコントロールできないという弱点を修正し、瞬間短期金利の対数が、下記のような拡散過程を取るモデルを提示しました。 

\[ d \ln r(t) = k(t) \left(θ(t)- \ln r(t)\right) dt+σ_r(t)dW(t) \tag{6.3} \]

この式にある通り、中心回帰強度パラメータ k(t) は、自由度のあるパラメータとして、(市場データに Calibration して)外生的に与える事が出来ます。また、中心回帰レベル θ(t) は、当初イールドカーブにフィットするように設定します。 

この式のパラメータ k(t)、σ(t) は、時間に対する Deterministic な関数と仮定されていますが、3項 Tree や有限差分法などの数値解を求めるアルゴリズムを使う際、Piecewise Constant な関数(階段関数)と仮定するのが一般的です。特定の離散時間内ではそれぞれ定数 k,σ と仮定し、伊藤の公式を使って r(t) の確率微分方程式に変換すると、 

\[ dr(t)=r(t)\left[ θ(t)+ \frac 1 2 σ^2 -k \ln r(t) \right]dt+σ r(t)dW(t) \tag{6.4} \]

という式が導出できます。拡散係数が r(t) に比例するようになっている事から、\(dr(t)\) は幾何ブラウン運動します。 

この式に初期値 r(0) を与えれば、積分形が求まり、下記のようになります。 

\[ r(t) =\exp⁡\left[ \ln r(0)~e^{-kt}+∫_0^t e^{-k(t-u)} θ(u)du + σ_r ∫_0^t e^{-k(t-u)}dW(u) \right] \tag{6.5} \]

この式から、s 時からみた t時における r(t) の平均と分散が求まり、それぞれ下記の通りです。 

\[ E^{Q_{RN}}(r(t))=\exp \left[\ln {r(s)} ~ e^{-k(t-s)}+∫_s^t e^{-k(t-s)}θ(u)du + \frac{σ^2}{4a} \left(1-e^{-2k(t-s)}\right) ~|~r(s) \right] \tag{6.6} \] \[ E^{Q_{RN}}(r(t)^2)=\exp \left[ 2\ln{r(s)}~e^{-k(t-s)}+2∫_s^t e^{-k(t-s)}θ(u)du + \frac{σ^2}{a}\left(1-e^{-2k(t-s)}\right)~|~r(s)\right] \tag{6.7} \]

Hull-White モデルの所で説明した通り(“Hull-Whiteモデル:3項Treeの構築”)、3項Treeを構築する際の分岐確率は、この平均と分散を使って求める事ができます。また、モンテカルロシミュレーションで、r() の拡散過程を、乱数を使ってシミュレーションする場合にも使えます。 

Black-Karasinskiモデルは、Black-Derman-Toy モデルと同様、ゼロクーポン債価格式やオプション価格式が解析的に求まりません。従って、Tree 構造や有限差分法といった数値的に近似値を求めるテクニックを使ってそれらを求める必要があります。これについては、後ほど簡単に解説します。 

という事で、Hull-White モデルの時のように、難解な数学の解析テクニックを使って、ゼロクーポン債価格式やオプション価格式導出の説明が不要なので、モデルの解説はこれで終わりです。次に数値解導出の説明の前に、対数正規モデルが抱える数学的な問題点を説明します。 

 

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