上級編 6.  Libor Market Model 

6.6   モンテカルロシミュレーション

6.6.2   LMMをモンテカルロシミュレーションで近似する際の課題  

6.6.2.1     LMM の具体化

はじめに、LMM での使用を念頭に、モンテカルロシミュレーションにおいて、何が課題になるかについて簡単に説明したいと思います。まず、古典的な LMM の SDE(6.38式)を下記に再記しますが、このモデルをどうやって MCS でシミュレーションしていくか見てみます。 

\[ dL_i(t)=Drift(∙)dt+ϕ_i ψ(t,T_i ) L_i (t)∙{\bf c_i (t)∙dw(t)^Q}~~~~ i=1,2,…,n \tag{6.38} \]

上式は、一般定な形であり、確率測度や、ドリフト項、拡散項を具体的に特定していません。そこで、まずモデルを具体化します。ここでは、確率測度をスポット測度 QB (セクション6.2.6参照:スポット測度を使った場合のドリフト項は6.33式)で特定し、拡散項係数にある Volatility 関数 \(ϕ_i ψ(t,T_i)\) を、6.52 式で示した Piecewise Constant な行列 G と仮定し、さらに相関行列を分解した行列 \(\bf c_i(t)\) は過去データから外生的に与えられたとします。

すると、6.38 式は、以下のような形で具体化されます。

\[ \begin{align} dL_i(t)& =L_i (t) \sum_{j=q(t)}^i \frac{τ_j L_j(t)g_i(t)g_j(t){\bf c_i∙c_j} }{1+τ_j L_j(t)}dt+L_i(t)g_i(t){\bf c_i∙dw(t)^{Q_B}} \\ & i=q(t),q(t)+1,…,n \tag{6.79} \end{align} \]

但し \(q(t)\) は自然数を返す関数で、t 時におけるフォワード Libor の中で、最も期日が短い物のインデックスを示す。例えば \(0<t <T_0\) 間であれば、直近の Libor は \(T_0~スタート~T_1\) 満期になるので \(q(t)=1\)、あるいは \(T_k < t < T_{k+1}\) であれば \(q(t)=k+2\)  

ところで、6.79 式は連続時間の式で、t 時におけるフォワード Libor、\(L_i(t)\) の微小時間での変化の様子を表しています。求めたいのは、このモデルから導出される \(L_i(t)\) の一定期間後の確率分布と、それを使ったデリバティブズの Payoff 関数の期待値です。数学的には、この微分方程式を現時点 t から、最終 Libor の Fixing日まで積分できればいいのですが、LMM ではそれが解析的に求まらないので MCS を使うのでした。具体的には、与えられた \(L_i(t)\) の初期値から、モデルが示す \(L_i(t)\) の微小時間での変化を、離散時間 Δt での変化で近似し、それを最終期日まで繰り返して、各離散時点および最終期日における \(L_i(t)\)の値と確率分布を求めていく事になります。 

その離散化をする際、ドリフト項と、拡散項にある t に依存するパラメータ値、すなわち \(L_i(t),L_j(t),g_i(t),g_j(t)~~(j=q(t)+1,…,n)\) をどうするかという問題が発生します。これらの値は、Δt の間に変化するので、どの時点の値を使うのか、あるいは Δt 間の平均を使うのか、そもそもその平均は計算可能なのか、といった問題が発生します。 \(g_i(t),g_j(t)\) は Piecewise Constant な関数と仮定すれば、Δt の間で一定と見做せるので、気にしなくていいでしょう。しかし、\(L_i(t),L_j(t)\) は確率変数であり、Δt 間に確率的挙動を取る為、Δt 間の平均を取る事さえやっかいです。 

この離散時間での近似の最もシンプルな方法は、(陽的)オイラー法と呼ばれるもので、下記式の形で、\(L_i(t+Δt)\) を求めます。この方法はドリフト項と拡散項の係数を、すべて t 時点の値で固定します。すなわち、ドリフト項と拡散項の係数を、時間に対し 1次のテーラー展開式で近似したのと同じです。 

\[ \begin{align} L_i(t+Δt) & ≈ L_i(t)+L_i (t)\sum_{j=q(t)}^i \frac{τ_j L_j(t) g_i(t)g_j(t) {\bf c_i∙c_j}}{1+τ_jL_j (t)} Δt + L_i(t)g_i(t) {\bf c_i ∙ \left( w(t+Δt)^{Q_B}-w(t)^{Q_B} \right)} \\ & =L_i(t)+L_i(t)\sum_{j=q(t)}^i \frac{τ_j L_j(t) g_i(t) g_j(t) {\bf c_i∙c_j}}{1+τ_j L_j(t)} Δt + L_i(t) g_i(t) {\bf c_i∙ \sqrt{Δt}~z(t)^{Q_B}} \\ & i=1,2,…,n \tag{6.80} \end{align} \]

但し、右辺の一行目にあるブラウン運動の増分 \( \bf w(t+Δt)^{Q_B}-w(t)^{Q_B}\) は、t 以前の情報から独立で、平均 0 で分散が Δt で正規分布する事が知られています。従って、それを右辺二行目で、Δt 間のブラウン運動 \(\sqrt {Δt}∙ \bf z(t)^{Q_B}\) に置き換えています。 

この操作を \(t=0~から~T_{N-1}\) まで繰り返し行えば、\(L_i(t)\) のサンプル経路(Sample Path)がシミュレーションされます。それをすべてのフォワードLibor \(L_i(t),~~i=1,…,n\) で行えば、各時点のイールドカーブのサンプルが得られます。さらに、そのイールドカーブのサンプルを多数揃えれば、各時点におけるイールドカーブの分布が形成されます。イールドカーブの分布が形成できれば、そこから、金利を対象資産とする、様々なオプション Payoff のサンプル平均が計算でき、かつそれを現在価値に割引く為の Discount Factor が求まります。最終的にそのサンプル平均を現在価値に割り引いたものが、MCS で求めたデリバティブズ価格になります。 

この式から、MCSにおけるいくつかの課題について説明します。ここでは課題の指摘にとどめ、後々のセクションでそれぞれ、どのように解決していくかについて説明したいと思います。 

 

目次

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