基礎編 4. オプション 

4.2 オプションのデルタヘッジ戦略

4.2.2 デルタヘッジ取引戦略

上記のような取引が成立すると、通常、証券会社のオプションデスクのトレーダーは直ちにデルタヘッジを行います。トレーダーはトヨタ株10万株のCall Optionの買持ちで、株価が上昇すればオプション価格も上昇するので儲かり、株価が下落するとオプション価格も下落するので損失が発生します。それをヘッジするには、損益が逆方法に動く、株のショートポジションを作る必要があります。では、どの程度ショートポジションを作る必要があるでしょうか。 

そこで、株価の変動額に対するオプション価格の変動額、言い換えると“株価に対するオプションの価格感応度”、さらに一般的な言い方で、“デルタ”を計算します。“株価に対するオプション価格の感応度”は、Black-ScholesーMertonの価格式の右辺を株価で微分した値です。結果だけ言えば、式中の\( e^{-(Dr+Br)T} N(d_1)\) がデルタになります。かつ、4.2.1の事例の取引条件であれば、その値は22.04 %になります。すなわち、原資産の価格が1単位動いたとすると、オプションの価格はその22.04%だけ動くという事です。トレーダーは、Call Optionの価格リスクをヘッジする為、そのデルタ相当額のショートポジションを作ります。 

デルタヘッジ取引戦略全体についてもう少し詳しく説明します。 

  • トレーダーは投資家からトヨタのCall Option 10万株を一株100円で購入しました。従ってオプション料として合計で1000万円支払う必要があります
  • そのオプション購入資金を市場から借りてきます。借入利率はリスクフリー金利とし、1%(年率)と仮定しました。利息は\(10,000,000\times 1\%/365=276円/日\) です。それをオプション行使日まで払い続ける必要があります。
  • その間、オプション価格は動きますが、その増減分について追加で借入れたり、余れば借り入れを返済したりする必要はありません。価格の増減分は、同額の損益の増減分で調達・運用されると見做されるからです(=Self-Financing Strategy)。
  • そしてデルタが22.04% なので、22,040株を借りて、それを市場で売却します。一応、その時の株価7142円で売却できたと仮定します。
  • 借りた相手には、毎日借りた株の時価の0.5%(年率)を借株料として支払います。従って借株料は \(22,040\times 7142\times 0.5\% \times 1day /365=2156円/日\) です。
  • 通常、株を借りた場合、貸し手に現金担保を差し出す必要があります。その現金は、株を売却して得た売却対価を充当します。従って、その為に別途資金調達する必要はありません。実務では、さらに5%程度のヘアカット(借りた株の時価より多めの担保額)を上乗せして現金担保を差し出しますが(そのヘアカット相当額は追加で資金調達し、その調達コストがかかります)、ここではヘアカットは無い、と仮定します。この現金担保には、通常リスクフリー金利相当の利息が付きます。その額は 22,040 * 7142 * 1%* 1day /365=4313円/日 となります。
  • 配当利回りですが、株を借りた相手に、借りた額の配当相当額を支払う必要があります。実際の支払いは、権利落ち日の借株数に、配当額を掛けた金額を、実際の配当支払日に支払います。従って、借株料のように毎日発生する訳ではありませんし、権利発生日と支払日のギャップも存在します。しかし、Black-Scholes-Mertonの計算式では、あたかも毎日、株を借りた相手方に払っているように計算しています。その額は 22,040 * 7142 * 2%* 1day /365=8625円/日 となります。デルタヘッジ戦略の説明なので、ここは目をつぶって下さい。
  • トレーダーは、株価の動きに合わせてデルタヘッジ額を調整していきます。原資産の株価が変動し、かつオプション期日までの期間が少しずつ小さくなっていくので、デルタは毎日変動します。仮に1日1回、終値ベースでデルタヘッジ額を調整するとします。デルタが上昇し、追加の株のショートポジションが必要な場合は、追加で借株を行い、市場で売却します。デルタが小さくなれば、その分だけ買い戻し、その株は、貸し手に返却します。

以上の取引き全体を表にまとめると、下記のようになります。 

対象資産 トヨタ株   オプション価格/株 100円
対象株数 100,000株   プレミアム総額 10,000,000円
オプションタイプ ヨーロピアンコール   デルタ -22.04%
取引日 2018/2/15 デルタ株数 -22,040株
オプション期日 2018/8/15   デルタ金額 157,409,680円
オプション期間(T) 0.496年      
スポット価格(S) 7,142
行使価格(K) 8,000   Funding Cost/Day -274円
リスクフリー金利(Rfr) 1.0%   Dividend Accrual/Day -8,625円
配当利回り(Dr) 2.0%   Borrowing Cost/Day -2,156円
借株料(Br) 0.5%   Income from Collateral/Day +4,313円
Volatility(Vol) 16.55% Total Carry Cost/Day -6,743円

 

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