基礎編 6. クレジットデリバティブズ

6.3   クレジットデフォールトスワップの価格計算方法

6.3.2   Reduced Form Model

さて、CDSの価格評価式に登場するサバイバル確率Q(t)(及び、そこから求まるデフォールト確率)の求め方ですが、一般的には、市場で取引されているCDSや債券などのクレジット商品の価格から、そこに内包しているデフォールト確率を求めます。その際、デフォールトの発生をReduced Form Model(誘導型モデル)と呼ばれているモデルで表現し、それにフィットさせる形でデフォールト確率を導出します。 

Reduced Form Modelでは、非常に多数のクレジットポートフォリオの中で、ランダムにデフォールトが発生する回数(整数になります)がポアソン過程を取ると仮定します。ポアソン過程は、原子核の崩壊や、地震の発生など、ランダムに非連続で発生する事象の、発生頻度を記述する際によく使われます。ポアソン過程では、単位時間あたりに事象がN回発生する確率は、ポアソン分布となります。また、ある事象が発生してから次の事象が発生するまでの時間が指数分布となります。なので、1銘柄だけで考えた場合は、現時点からデフォールトするまでの時間が指数分布になると考える事ができます。ポアソン過程、ポアソン分布、指数分布等については、ネットに多くの解説が出ているので、そちらをご覧ください。 

ポアソン過程において、ある時点(瞬間)での事象発生確率を、intensity(強度)と呼びます。ここでは、それをλ(t)と表記し、時間 t の関数と看做します。ランダムな事象が発生した時刻を τ と置くと、将来のある微小時間(Δt)内に、その事象が発生する確率は、下記のように表現できます。 

\[ p(t \lt τ \le t+Δt~ |~ τ\gt t)=λ(t)Δt \]

(注:右辺でt時の瞬間Δtを掛けているのは、λが年率表示という前提で、Δtは年換算した微小時間を表します) 

逆に事象が発生しない確率は \(1-λ(t)Δt\) となります。 

ここから、ある特定の銘柄が、将来の時間tまでの間にデフォールトする確率、あるいはデフォールトしない確率(1-デフォールト確率)が表現できます。将来のある時点を T とし、現在(t=0)から T 時までを n分割し、各時間間隔を \(Δt_i\) と置きます。また、その各 \(Δt_i\) 間のデフォールト強度(default intensity)が \(λ(t_i)\) だったとします。すると、T 時までデフォールトが発生しない確率は、  

\[ \mathbb{Q}(T)=\prod_{i=1}^n (1-λ(t_i)Δt_i) \]

となります。仮に全区間で λ が一定だと仮定し、時間分割を無限に小さくしていくと 

\[ \mathbb{Q}(T)= \lim_{n\rightarrow\infty}⁡\left(1-λ \frac T n \right)^n=e^{-λT} \]

となります。仮にλが時間の関数 λ(t) の場合は、上式の指数関数の肩を積分形にすればよく 

\[ \mathbb{Q}(T)= e^{-\int_0^T λdt} \]

となります。この \(mathbb{Q}(T)\) は、サバイバル確率(non-default probabilityあるいはsurvival probability)と呼ばれています。 

ここから、T 時までにデフォールトする確率(cumulative default probability)は以下のように記述できます。 

\[ \mathbb{P}(T)=1-\mathbb{Q}(T)=1-e^{-λT} \]

さらに、τ 時の瞬間に初めてデフォールトする確率、すなわちデフォールト確率密度は、この分布関数をτで微分する事で求まります。 

\[ デフォールト確率密度=\frac {d\mathbb{P}(τ)}{dτ}=-\frac{d\mathbb{Q}(τ)}{dτ}=- \frac{d~e^{-λτ}}{dτ}=λe^{-λτ} \]

これで、前のセクションの CDS の価格式で使われていた \(\mathbb{Q}(t)~と~ -dQ(τ)/dτ\) が具体的な関数形で表現できました。これらを前のセクションの CDS の価格式に代入します。 

\[ CDS~~Value=0.6 \int_0^T D(τ)λe^{-λτ}dτ- \sum_{i=1}^n c \left[Δt_i e^{-λt_i}D(t_i)+ \int_{t_{i-1}}^{t_i} (τ-t_{i-1})D(τ)λe^{-λτ}dτ \right] \]

これで CDS 価格が求まりそうですが、式の中にある定積分をどうやって求めるのかという問題が残ります。というのは、被積分関数に含まれる \(D(τ)\) と λ は、それぞれイールドカーブとクレジットカーブから、Bootstrapping-Interpolation のアルゴリズムを使って求める必要があります。すると、積分を解析的に解くのは一見難しそうです。では、それをどうやって計算するのか? 数値積分が使えそうですが、次に、その方法について解説します。 

注: ちなみに、Reduced Form Model(誘導型モデル)という呼称は、マクロ経済を記述するモデルを表現する方法として、Structural ModelとReduced Form Modelと区別する所から来ていると思われます。デフォールト確率を記述するモデルとして、1970年代に、Robert Mertonが発表したモデルがあります。そのモデルは、企業の資産価値がランダムに動くと仮定し、その価値が負債価値を下回った時点でデフォールトが発生すると看做しました。デフォールトの発生する仕組み(Structure)をモデル化していたのでStructural Modelと呼ばれていました。それに対し、上記の方法は、default の発生原因を分析する事なく、いつ、なぜ起こるか判らない、ポアソン過程を取るランダムな事象と看做して、デフォールト確率を求めます。そして、確率を導出する為に使われるdefault intensityは、外生変数として、市場データから導出します。デフォールト確率は、default intensityを説明変数、デフォールト確率を明変数とする、Reduced Formの方程式の形を取っているので、そのように名付けられたと推察します。 

 

 

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