基礎編 3. スワップ 

3.2 スワップ取引の誕生と成長

3.2.2 最初のスワップ取引 (IBM VS World Bank)

世界で最初のスワップ取引は、1981年のWorld BankとIBMの間のカレンシースワップ取引と言われています。非常に有名な取引で、様々な文献で紹介されています。(例: Case Study, Currency Swap IBM and World Bank, Source: Finance Department University of Houston ) 従って、詳細な説明は避けますが、概要を掻い摘んで述べると、  

  • スイスフラン資金調達のニーズがあったWorld Bankと、米ドル調達のニーズがあったIBMが、
  • World Bankはスイスフランでは無く、米ドルで資金調達し、IBMが米ドルでは無くスイスフランで調達をした上で
  • 両者の間でカレンシースワップ取引を行った結果
  • 両者とも、経済的には、当初のニーズ通りの通貨で資金調達を行えた形になり、
  • かつ両者とも、当初通りの通貨で直接調達するよりも、安いコストで調達が可能になった。

というものです。最後のポイントが重要です。 

IBMとWorld Bankが行った、SFR調達US$調達、およびカレンシースワップ取引のチャート図を示します。 

カレンシースワップ取引が登場する前に、同様の経済効果を持つ取引は、パラレルローンと呼ばれるスキームでした。すなわち、上記の概要の中の、3つ目のポイント“両者の間でカレンシースワップ取引を行った”を、“両者の間で、パラレルローンを取り組んだ”と書き換えても、キャッシュフローは、全く同じになります。 

パラレルローンとは、2人の取引当事者AとBがいて、AがBに通貨Xでローンを提供し、逆にBがAに通貨Yでローンを提供する取引です。金額は、為替レートで換算した額が一致するように設定します。またローンの満期日も同じ日に設定します。 

World BankとIBMの例で言えば、World BankがIBMに米ドルでローンを提供し、IBMがWorld Bankにスイスフランでローンを提供します。取組み時点のローン金額は、為替レートで換算すると同額になるようにします。またローンの期間も同じになるように設定します。 

この取引の背後で、World Bankは、IBMへの貸付資金を、米ドルで調達をしており、一方IBMは、World Bankへの貸付資金を、スイスフラン建てで調達しています。その調達資金をBack to Backで、お互い貸しあっている事になります。(取組時チャート) 

取引の期間中、World BankはIBMから米ドル建てのローンの金利を受け取り、それを調達した米ドルの負債の金利支払いに充当します。またIBMはWorld Bankからスイスフラン建てのローンの金利を受け取り、それを自ら調達したスイスフラン建ての負債の支払い利息に充当します。(クーポンCashFlow) 

ローンの満期日に、World BankはIBMから米ドルローンの返済を受け、それを自ら調達した米ドル負債の返済に充てます。IBMも、World Bankからスイスフラン建てのローンの返済を受け、それを自らの負債の返済に充当します。(最終期日チャート) 

取組時から、金利支払い時、および満期日それぞれのキャッシュフローを見ると、このパラレルローンと、カレンシースワップ取引のそれは、全く同じになります。 しかし、IBMとWorld Bankは、あえてパラレルローンとせず、キャッシュフローの交換契約としたのでした。  

パラレルローンはOn Balance Sheet取引ですが、このキャッシュフローの交換契約は、為替のフォワード取引と同様の契約とみなして、Off Balance Sheet取引として扱われました。その結果、お互いに次の様なメリットが発生しました。 

  • パラレルローンであれば必要な調達額の2倍のバランスシートを使う事になるが、スワップであれば、Off Balance 取引なので1倍。従って、負債比率を不必要に悪化させずに済んだ。
  • パラレルローンであれば、お互いのローンは別個の取引きであり、どちらかの当事者がデフォールトした際に、反対債権・債務での相殺が、どの程度認められるかよくわからない。スワップでも、当時は相殺権について明確な判例は無かったが(初の取引きなので当然ですが)、一個の取引きなので、Cash Flow交換時の同時履行の抗弁が可能であったと考えられる(為替取引から類推される)。従って、相手方のクレジットリスクを軽減できた。
  • ローンであれば、利息にかかる源泉税や、国境をまたぐ取引であれば資本規制など、ケースバイケースで法令上の問題をクリアしなければならない。スワップは、当時法規制は無かった。(おそらく、為替取引から類推して、様々な法令上の論点が詰められたと推察します)

但し、2点目や3点目のメリットは、今でこそ明確ですが、当時は法解釈や判例が固まっていた訳ではなく、法務部門で詳細な詰めをし、契約書も、余計な規制や税金がかからないようにする為に、ありとあらゆる文言が挿入されていたと推察されます。 

 

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