上級編 8 クレジットデリバティブズ
8.3 Gaussian Latent Variable Model (1 factor Gaussian Copula Model)
8.3.2 Gaussian Latent Variable ModelとVasicekのポートフォリオ損失モデルとの違い
Vasicek のポートフォリオモデルと、この Gaussian Latent Variable Model は、モデル形や、そこからデフォールト損失の同時確率分布関数を求めるプロセスが非常に良く似ています。しかし、確率変数やデフォールト閾値の意味付けは、大分異なります。その異なる点とは
① Merton や Vasicek のモデルでは、\(A_i(t)\) は“企業の総資産価値”という経済的な意味付けを持ち、それが幾何ブラウン運動をする確率過程を取ると仮定しています(なので時間 t の関数として表記されています)。一方、Gaussian Latent Variable Model の \(A_i\) は(8.1式参照)、何等かの経済価値を表すものではなく、その確率過程も示されていません(なので時間tの関数ではなく、単に \(A_i\) と表記されます)。なぜ正規分布するかの説明もなく、無理やりそう看做しているだけです。
\(A_i\) を、あえて意味づけするなら、
・ デフォールトの発生は、何等かの市場ファクターと、個別銘柄ごとのファクターとの組み合わせた偶発的な要因に支配される。
・ それぞれのファクターの経済的な意味合いはよく分からないが、その発生するファクターの確率分布は、標準正規分布すると仮定する。
・ そして観測時に、ファクターの合計値が、一定の値を下回っていたなら、デフォールトしたと看做す。
というもの。そういった実体はよく分からないが偶発的事象を引き起こす原因となる確率変数を潜在変数と呼ぶので、このモデルが Gaussian Latent Variable Model(正規分布する潜在変数モデル)と呼ばれる所以です。ファクターが標準正規分布するとの仮定は、何等かの観測データから推察されたものではなく、無理やり仮定しただけです。
② Merton や Vasicek のモデルでは、デフォールト閾値 \(D_i\) が、“負債総額”という経済的な意味合いを持ち、かつ外生的に与えられます。さらに確率変数 \(A_i(t)\) の確率過程のドリフト項係数や 拡散項係数(Volatility) も、企業の株価のデータなどから類推して、外生的に与えられます。そこからオプション満期時(T 時)における \(A_i(T)\) の確率分布を求めます。その時点で \(A_i(T) \lt D_i\) となっていれば、デフォールトと看做します。その確率 \(P(A_i(T) \lt D_i)~は、A_i(T)\) を標準正規分布する確率変数に変数変換し、標準正規分布関数 Φ(…)を使って求めます。
一方、Gaussian Latent Variable Model の考え方は、企業のクレジットカーブから、T 時までのデフォールト確率 \(P_i(T)\) をまず先に求めておきます。それを標準正規分布関数 \(Φ(…)\) の逆関数に代入して、デフォールト閾値である \(D_i(T)\) を求めます。
(注:Vasicek は、閾値 \(D_i~や~A_i(t)\) の Volatility の求め方を、特に示していません。さらに言えば、デフォールト確率を、ポートフォリオの平均値を使って、すべての銘柄で同一と看做して、そこからデフォールトの同時確率分布関数を求めています。なので、\(D_i~や~A_i(t)\) の経済的意味合いは、結果的に無視されています。しかし、Vasicek の論文では、当初のモデルの構築を、Merton の Structure Model から派生させているので、同じ考え方を取っているとしました)
③ Vasicek モデルでは、デフォールトの相関に影響を与える ρ は、例えば株価の相関などから外生的に求めます。一方Gaussian Copula Modelでは、デフォールトの相関に影響を及ぼす β は、CDO トランチの市場価格から逆算して求めます。市場価格に内包している相関係数という事で、implied correlation と呼ばれています。
以上のように、Vasicekのポートフォリオモデルと、Gaussian Latent Variable Model は、いずれも Gaussian Copula Model と呼ばれているものの、モデルで使われる確率変数の意味合いが異なります。また、デフォールト閾値や、デフォールトの相関といったパラメータの導出方法も異なっています。前者は、企業価値の確率過程や、デフォールト閾値や、デフォールトの相関などのパラメータを外生的に与えて、ポートフォリオから発生するデフォールト損失の確率分布を予想するモデルです。一方、後者は、デフォールト確率やデフォールトの相関を、市場のベンチマーク商品(スタンダードなインデックスの CDO トランチ)の価格に Calibration して導出するモデルで、そこから求めたデフォールト損失の確率分布を使って、CDO トランチの価格評価を行います。