上級編 8  クレジットデリバティブズ  

8.3 Gaussian Latent Variable Model (1 factor Gaussian Copula Model) 

8.3.4   価格評価アルゴリズム 

8.3.4.4    デフォールト損失率の無条件同時確率分布関数、及びその期間構造の導出 
        (Section 8.3.3.1-⑥~⑨のプロセス)

M=m とした時の、条件付き同時確率分布関数から、無条件の同時確率分布関数を求めるには、まず M の全領域で条件付き確率分布関数を求め、それを M の確率密度関数を積分関数として定積分します。言い換えると、条件付き同時確率分布関数の、M の確率空間上での期待値を計算します。M は標準正規分布すると仮定していたので、その確率密度関数は \(\frac{1}{\sqrt{2π}}e^{-\frac 1 2 x^2} \) になり、それが積分関数になります。Section 8.3.4.3 で求めた条件付き同時確率分布関数を、\(f_k(Φ_1,…,Φ_N, \beta ~|~M=m ),~k=0,…,125\) と表記すると、それを被積分関数とした定積分は下記式のようになります。 

\[ \int_{-∞}^{+∞} f_k(Φ_1,…,Φ_N,\beta ~|~M=m ) \frac{1}{\sqrt{2π}} exp \left(-\frac{m^2}{2}\right)dm,~~k=0,…,125 \tag{8.21} \]

この定積分は解析的に求まらないので、数値積分を使って近似値を計算します。すなわち、積分範囲を離散的に分割し各区間を代表する \(m_1,m_2,…m_{max}\) の値で数値積分を行います。max は数値積分における積分区間の分割数になります。積分区間は、全区間( Mの領域(-∞,+∞))で行う必要は無く、せいぜい ±5 程度の範囲で十分です。それより外側では確率密度関数が 0 に近く、積分結果が無視できるほど小さくなるからです。 

それで求まったのが、ポートフォリオ損失率の、無条件同時確率分布関数になります(離散的な分布関数です)。そしてこの関数がいわゆる正規コピュラ関数と呼ばれているものです。 

ここからさらに、以上のアルゴリズムを、時間軸を離散化して、各時点で行う必要があります。CDOの満期が5年で、時間軸の離散化を3か月ごとに行うとすれば、20時点で上記のアルゴリズムを走らせる必要があります。 

条件付き同時確率分布関数を求める2項ツリーのアルゴリズムの計算量は \(125^2\) のオーダーになりますが、数値積分の離散化を 32、時間軸の離散化を 20 とすると、トータルの計算量のオーダーは \(125^2×32×20≒10\) million となります。 

ちなみに、Vasicekのモデルで仮定した Large Homogeneous Portfolio であれば、各損失率(0,u,2u,…,125u)の確率がそれぞれ1回の計算で求まるので、計算量を大幅に低減できます(トータルの計算量は 125×32×20≒80 thousand 程度)。後で説明する相関係数 β を市場価格から Calibration して求める場合は、この軽減した方法を使う場合が多いようです。 

 

8.3.4.5  Tranche Survival Curve (Section 8.3.3.1-⑩ のプロセス)

ポートフォリオ損失率の同時確率分布関数とその期間構造が求まったので、そこから Tranche Survival Curve を求めます。Tranche Survival Curve とは、CDO トランチ毎に、みなし元本の残存率の期待値を、時間軸に沿ってカーブで表現したものです。シンプルな CDS の価格評価では、債券や CDS の市場価格から導出されたサバイバルカーブを使いました(基礎編 Section 6.3.3.3 参照)。CDO トランチの価格評価で、同様の役割を負うのが、この Tranche Survival Curve になります。Tranche Survival Curve は、下記式のように、ポートフォリオの損失率 \(L(T)\) の期待値から求めます。 

\[ \mathbb {Q}(T_i,K_A,K_D)=1- \frac {E\left[\min \left(L(T_i ),K_D \right)-\min \left(L(T_i),K_A\right) \right]}{K_D-K_A} ~~~~~~~~~~~~~~~~~~ \tag{8.22} \]

    但し
        \(L(T_i)~:~ T_i\) 時までに発生したポートフォリオの損失率(確率変数) 。
                 ここでは損失単位 u の整数倍の離散的な確率変数になります。
                 \(L(T_i)=\{0,~u,~2u,~…,125u \}\)
        \(K_A~:~トランチのAttachment Point \)
        \(K_D~:~トランチのDetachment Point \)

左辺の \(\mathbb{Q}(T_i,K_A,K_D)\)が、\(T_i\) 時における、トランチ \((K_A,K_D)\) の、みなし元本の残存率の期待値になります。その値は、右辺にある通り、\(T_i\) 時までの、みなし元本の損失率の期待値を、1から引いて求めます。\(T_i,\) は通常、CDO トランチのプレミアム支払日に合わせます。 

先ほど2項ツリーで求めた \(L(T_i)\) の確率分布は、離散的で、損失単位を u とすると、その整数倍になります。それを勘案して上式を書き直すと下記式のようになります。 

\[ \mathbb {Q}(T_i,K_A,K_D)=1- \frac { \sum_{k=0}^N \left[\min \left(L(T_i ),K_D \right)-\min \left(L(T_i),K_A \right) \right] P_k(T_i)}{K_D-K_A} ~~~~~~~~~~~~~~~~~~ \tag{8.23} \]

但し \(P_k(T_i),~~k=0,…,N~は、T_i\) 時における(ポートフォリオ全体で発生する)損失率が \(k*u\) となる確率です。これは先ほど2項ツリーと数値積分で求めた、コピュラ関数(8.21式)になります。 

ここで、損失単位 u を 0.48% と置き、CDX の \(K_A=3\%,~ K_D=6\%\) のメザニントランチについて、8.22式の右辺にある \([\min{(ku,K_D)}- \min{(ku,K_A)}]\) を計算すると下記のようになります。 

\[ \begin{eqnarray} \begin{cases} 0 ~~~~~~ & \min{(0,K_D)} - \min{(0,K_A)}=0\% \\ 1u ~~~~~ & \min{(0.48\% ,K_D)}- \min{(0.48\%,K_A )}=0\% \\ 2u ~~~~~ & \min{(0.96\% ,K_D)}- \min{(0.96\%,K_A )}=0\% \\ \vdots ~~~~~ & ~~~~~~~~~~~ \vdots \\ 7u ~~~~~ & \min{(3.36\% ,K_D)}- \min{(3.36\%,K_A )}=0.36\% \\ 8u ~~~~~ & \min{(3.84\% ,K_D)}- \min{(3.84\%,K_A )}=0.84\% \\ \vdots ~~~~~ & ~~~~~~~~~~~ \vdots \\ 12u ~~~~~ & \min{(5.76\% ,K_D)}- \min{(5.76\%,K_A )}=2.76\% \\ 13u ~~~~~ & \min{(6.24\% ,K_D)}- \min{(6.24\%,K_A )}=3.0\% \\ 14u ~~~~~ & \min{(6.72\% ,K_D)}- \min{(6.72\%,K_A )}=3.0\% \\ \vdots ~~~~~ & ~~~~~~~~~~~ \vdots \\ 124u ~~~~~ & \min{(59.52\% ,K_D)}- \min{(59.52\%,K_A )}=3.0\% \\ 125u ~~~~~ & \min{(60\% ,K_D)}- \min{(60\%,K_A )}=3.0\% \end{cases} \end{eqnarray} \]

この離散的な損失率に、確率 \(P_k(T)\) を掛けて足し上げれば、\( E[ \min({L(T),K_D)}- \min{(L(T),K_A )}]\) が求まります。メザニントランチのトランチ幅、すなわち看做し元本割合は 6−3=3% になるので、上の場合分けの式で分かる通り、\(\min({L(T),K_D)}- \min{(L(T),K_A )}\) が 3%を越えることはありません。8.22 式と8.23 式の右辺第2項は、それを \(K_D-K_A=3\%\) で割っているので、(0,1) の間の値を取り、それがトランチ元本に対する損失率の期待値になります。さらに 1 からそれを引けば、トランチ元本の残存率の期待値になります。 

Tranche Survival Curve を求めるには、以上の計算を、時間軸を分割した各 Pillar 上て求めます。ベンチマークの CDO トランチの Premium Cash Flow 支払い日は、3か月おきに発生するので、T を離散化して \(t_i=0.25, 0.5, 0.75,…,T~の各~ t_i~ で\mathbb{Q}(t_i,K_A,K_D)\)を求めます。 

 

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